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再構築りれいしょん①

2011.04.23.17:59


2013年8月28日 大幅加筆。あと三人称よりに統一。

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再構築りれいしょん②

2011.04.24.16:00



まてりある


(Side:キョーコ)

すーはーすーはー

深呼吸をしつこい位に、何度も何度も繰り返す。

それは一ヶ月ほど前までは、自分に与えられた部屋を出るときの儀式だった。

そして今は――――――

こんこん

ここは、一ヶ月前このお屋敷にやってきた『敦賀蓮さん』のお部屋。

「はい」

そう言って、返事と共に扉が開けられる。

「また君か」

『敦賀蓮さん』はそういって呆れた顔をする。

でも毎回、必ず体を避けて言ってくれた。

「どうぞ?」

私を部屋に入れた後も、扉は少し開けたままにする。

女性と二人きりの状態で密室を作ってはいけないそうだ。

「で、今日は何の用?俺も暇じゃないんだけど」

「あ、の。何か、私、お手伝いできること、ないかなって、思って、それで」

「ないよ。帰ってくれる?」

「あ、あの、じゃあ、なにか、お茶でも・・・」

はぁ

『敦賀蓮さん』がため息をつく。

呆れられてる、邪魔して、迷惑をかけている。

それでも私は、毎日こうして『敦賀蓮さん』のもとに通ってしまった。


私は寂しかった。

寂しいのに、人が怖くて、嫌で、なのに、『敦賀蓮さん』だけは違った。

彼に嫌われたくないのに、こうして迷惑なことばかりして、少しでも傍にいようとしてしまう。


いつも『敦賀蓮さん』はこのため息のあと、私のお茶を飲んでくれる。

無言の、短いお茶会を私と過ごしてくれる。

でも、この日は違った。









(Side:蓮)

特別、虫の居所が悪かったとか、そう言うことじゃあ、ない。

この一ヶ月の間、少しずつ降り積もっていた何かが、とうとう爆発した。そんな感じだ。

嘗て、無邪気に笑いかけてくれた少女が、おどおどびくびくとしながら俺を見上げる。

俺が分からないくせに、どうせ俺のことなど既に記憶のかなたで、ショーちゃんとの思い出にでも塗りつぶされているくせに。

それでも毎日会いに来て、あなたなんか覚えていない、と見せつける。

この日、俺はとうとうその苛立ちを、幼い少女にぶつけてしまった。

「君さ、俺の言っている事、本当にわかってる?」

自分でもびっくりする位に、抑揚のない声が出た。

彼女はびくっと大げさに震え、さっと俯けられた顔は耳まで青いようだった。

「もっと直接的に言わないと分からないかな?毎日毎日―――――」

慣れない日本での生活。

自分に気づいてくれない少女(汚れてしまった自分など、見せたくはないくせに)。

けれど、それが何の免罪符になるというのだろう。

たった11歳の、いつも泣いていた6歳のあの時よりも、もっと弱弱しくなってしまった彼女に、あんなことを言うなんて。

ダン!!

「鬱陶しいんだよ」

機械の音声のようだった。

せめて、怒鳴るのは堪えようと殴った机。

だが結果、招いたのは怒声よりも恐ろしいであろう、温度のない音。


ぱたん


俺は扉が閉まるのをただ、茫然と見ていた。

「俺、いま、なにを言った?」


閉まった扉をもう一度開く。俺は彼女を探して走った。








(Side:キョーコ)

頭が一切の思考を拒否している。

ただ、あの部屋には、『敦賀蓮さん』の傍にはいられない、居てはいけないのだと、それだけを理解した。

気がつけば、自室に近い庭、と言うには壮大な森の中に逃げ込んでいた。

小さな人工の沢の流れるそこは、不思議と私の心を引きつけた。

ポケットから、青い石を取りだし握りしめる。

ひたすらに、この優しい場所でそうして蹲っていれば、じわじわとするこの胸の鼓動は収まるはず。

ときどき目が覚めると、こんなふうに、心臓がじわじわして、苦しくて、勝手に涙が出るけれど、ここでこうしていると、何もなかったことに出来る。

じっと、じっとしていると、不意に

がさ

と草木を分ける音がした。

驚いて振り向くと、そこには『敦賀蓮さん』がいた。

傍にいたらいけないって、それだけで、体が勝手に逃げようとするのに、恐怖で体がすくんで動けない。

それでも、ずりずりと体を引きずり逃げようとする。

片手で必死に石を握りしめた。

「ごめん」

その時、突然、視界が高くなる。

温かさに包まれて、『敦賀蓮さん』の顔が目の前に来ていた。

その顔が、苦しそうに歪む。

「ごめん、本当にごめん、謝って済むことじゃないけど、酷い、最低なことを君にした、俺は、君に忘れられてしまったのが、ただ、苦しくて悲しくて、如何すればいいか分からなくて、済まないっ」

彼が今にも泣きそうに見えて、私はとっさに石を差し出した。

「これ!これを、持ってると、苦しいの、なくなるよ」

彼が今まで見たことない位に目を見開いた。

そして、なかなか石を受け取らない彼に、ようやく自分が彼に抱きあげられている事に気がつく。

抱きあげられている事に動揺していた私は、

「知ってるよ」

そう言って、天子様のように微笑んだ彼に、さらに動揺した。








(Side:蓮)

彼女を抱き抱えたまま、収まりのいい木の下に腰を下ろす。

「俺があげたものなんだから。ごめんね、髪も目の色も変わっていたら、分かるはずないのに、何で気がついてくれないんだって、勝手にイジケテ、怒っていたんだ」

彼女がバッと俺に飛びついてきた(既に密着状態ではあったけれど)。

驚き顔の彼女に仕方ないと思いながら、出てきた言葉は予想外のものだった。

「この石、あなたがくれたの!?」

『あなた、コーンなの!?』てっきり、それに類することだと思ったのに・・・。

(なんだ?なんで、これじゃあ、まるで・・・)

本当に、忘れられてる?



けれど、彼女が忘れてしまったのは、俺のことだけではなかった。

彼女は、何も・・・・・。




何もかもを忘れてしまっていたのだった。












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再構築りれいしょん③

2011.04.25.16:00



いぐざみねいしょん

(Side:蓮)

あれから彼女と、森に夕日の陽が差し込むまでずっと話しをしていた。

彼女は彼女自身が知る数少ない自分のことを懸命に話してくれた。


半年より以前の記憶がないこと。

気がついた時には病院で、次に東京の、ある施設へと移ったこと。

そこで宝田社長に引き取られ、養子となったこと。

過度のストレスがかかってはいけないこと。

人と居ると強いストレスになってしまうため、それを避けていること。

「じゃあ、なんで毎日俺のところに来たの?」

彼女が腕の中でびくりと震えた。

「あぁ、違う、駄目って言っているんじゃないよ。ただ、俺は君にあんなに辛く当っていたから、随分君に精神的に負荷をかけただろう?」

「敦賀さんは、いやじゃ、なかったから・・・。人が嫌いで、人と居ると、怖くて、近づきたくなくて、でも、寂しくて」

彼女が言葉に詰まりながらも、俺に気持ちを伝えようとする。

この一ヶ月、俺と彼女はなんだかんだで毎日短いお茶会を過ごしたというのに、お互いのことを何一つとして知らなかったのだった。

俺は静かに彼女の言葉を待つ。

自分でも何て現金なことかと思う。

つい先ほどまで、俺は彼女のびくびくとした態度に苛立っていたというのに、何もかも忘れてもなお、俺の贈った石だけは大切にしている。その事実を知った途端に、彼女の不器用な態度にさえ愛おしさを感じてしまうのだ。

「でも、敦賀さんは、怖いけど、嫌いじゃなくて、なんだか、傍にいたいなって、それで、迷惑がられて、るのに・・・・―――――ふっぅ」

彼女が泣き出してしまう。

ああ、俺はあんなに泣かせたくなかった少女を、こんな風に泣かせて。

そのくせ、まるで俺だけが特別であるように言う彼女に喜びを感じて。

まだ純粋さを保っていた頃の俺が、木の向こうから睨んでいる気がした。

「違う、違うんだ、迷惑なんかじゃない。俺が馬鹿で、君とどう接すればいいのか分からなくて、でも、もう大丈夫だから、たくさん、泣いていいから、また、俺の部屋に来て?俺からも、君の元へ行かせて?」


彼女の背を撫で、俺は泣きやんだ彼女が望むまま、彼女の忘れてしまった二人の思い出を語って聞かせた。


俺と君が友達だったこと。

出会い頭に妖精と間違われたこと。

君が目玉焼きの乗ったハンバーグを好きなこと(今でも好きか、明日、屋敷のシェフに教えてもらって、一緒に作ろうと約束した)。

二人で作ったハンバーグ王国のこと。

暑さに倒れた俺を、君が懸命に看病してくれたこと。

俺がバク宙してみせたとき、君が褒めてくれたこと。

そして、俺達はまだ子供で、5年前に離ればなれになったこと。

その時、君に青い石を贈ったこと。


彼女は二人の想い出を覚えていないことを残念がり、そうして俺にまた出会って、想い出を聞かせてもらえたことを嬉しいと言ってくれた。

「敦賀さんが、特別、なのは、お友達だったから、なんだ!!」

そう言って、再開して以来、初めての笑顔を見せてくれた。







(Side:ローリィ)

俺がプライベートルームでナツコと寛いでいると、付き人から蓮の来訪を告げられた。

通すように伝えながらも、蓮の来訪理由を考える。

(恐らく、キョーコに関することだとは思うが・・・)

連日のキョーコによる蓮の元への訪問、そして蓮の冷たい態度は耳に入っている。

ただ、自ら決して人と関わろうとしなかったキョーコが自主的に何かをしようとしているのを静観していた。

蓮に関しても、いくら余裕がないからといって、11歳の少女に行き過ぎた態度はとるまい、と思っていたのだが、どうやら今日の報告を聞く限り、彼はやらかしてしまったらしい。

ただ、そのあとに直ぐ行動を起こしたよだから、現在2人がどうなっているのかは分からない。

(俺の勘では、そうそう悪い事態にはなっていないと思うんだがなぁ?)


正面の扉が開き、蓮が入ってきた。

「社長、お寛ぎのところ申し訳ありませんが、お尋ねしたい事があります。」







(Side:蓮)

彼女を部屋まで送って行った後、俺はその足で社長の元へと向かっていた。

俺にはどうしても腑に落ちないことがあった。

そして、その答えは恐らく社長が知っている。

(キョーコちゃんは、ずっと旅館に預けられていたはずだ。事故による記憶喪失なら、なぜココにいる?旅館では手に負えなくなって施設に預けたとして、なぜ京都ではなく東京なんだ?)

それに、彼女が自分が記憶喪失になった経緯を知らないことにも嫌な感じを受ける。

(事故ではなく、事件に巻き込まれた?犯人が捕まっていないために京都から離された、あるいは事件現場から遠ざけられた?いや、もともと記憶を失う前に東京に来ていた可能性だってある・・・)

何にしろ、彼女の記憶喪失は事故ではない。

そんな、妙な確信があった。

しかし、俺が社長に聞かされた、彼女が記憶を失い、現在にいたるまでの経緯は、その時の俺には想像のしようもないことだった。





(Side:ローリィ)

正面のソファーに座った蓮が、ぽかん、とした顔のあと、驚愕に目を瞠った。

「ストレス、ですか・・・?」

「あぁ、最初に言っただろ。彼女は繊細だって。彼女に過度のストレスは禁物なんだ。何と言っても記憶喪失の原因だからな。」

蓮は何か思い当たる節でもあるのか、考え込んでいる。

「オイ、蓮」

目の前の、キョーコの現状を求めて訪れた青年は、実際には15の少年である。

だからこそ、中途半端な覚悟で彼女の事に首を突っ込んでは欲しくなかった。

彼女の心が繊細であるように、目の前の少年の心もそうなのだから。

「お前、彼女の事情を知って如何しようってんだ?今日、お前がキョーコに随分ひどい態度を取ったのも、それを後悔してキョーコを追っかけたのも聞いている。今日の事でキョーコに同情したとか、償いたいってんならやめとけ。お前がこれからやろうとしている事と、彼女を支えるってことは生半可な思いじゃ両立させられねぇんだよ。」

意識して突き放した声音で言う。

蓮には、こうでも言えば多少なりとも動揺すると思った。

だが予想に反して、目の前の少年はこの前まで死にかけていた者とは思えない目を見せる。

「中途半端な思いで近づく?彼女にそんな思いで近づくようなヤツがいるなら、俺が排除しますよ。」

言葉は静かだったが、そこには、再生を懸けたときと同じく、強い意思が込められていた。


ただ一人、蓮にだけは懐いたキョーコ。

キョーコのために火をともした蓮。


(これは、この二人、一緒に居させてみる価値があるかも知れんぞ?)

ローリィの勘は、蓮に彼女の身の上を聞かせるべきだと判断した。








(Side:蓮)

それは、あの日少女の幸福を祈った蓮にとって、限りなく遣る瀬無い彼女の物語だった。


小学生の彼女は、学校でのいじめと、旅館での仕事、そして実母からの育児放棄を受け、精神的・肉体的に極限まで追い詰められていた。

あるとき実母と久しぶりに会うこととなった彼女は、実母と話しているとき、突然意識を失った。

そのまま病院へと搬送され、彼女が精神的・肉体的に極度の疲労を抱えている事が発覚。

目を覚ました彼女が記憶に障害を抱えている事を受け、彼女の生活環境が調査された。

その結果、幼い少女が生きるにはあまりに劣悪な環境に、彼女は法の手続きの元保護された。

病院での療養の後、彼女は京都にある施設へと託される手筈となっていた。

しかし、彼女を預かっていた旅館からの度重なる面会の求めや、彼女の引き取りの申し出に危惧が抱かれ、彼女の保護先は東京の施設へと変更になった。

記憶を失った彼女は、大人も子供も、男性も女性も、あらゆる人という人を嫌悪し、恐怖するようになっていた。

それでも、彼女本来の性格からか、本能的にしてしまう人への嫌悪を乗り越えようと努力した。

けれど、努力すればするほどに彼女の精神への負荷となり、より一層、彼女を苦しめ、自己防衛のために記憶すら失ったのであろう彼女は、更に壊れようとしていた。

そんな時、彼女は社長に引き取られたのだ。


ローリィが淡々と、彼自身が彼女を引き取るときに聞かされたこれまでの経緯を話す。

話を聞き終えた蓮は、ひとつ、彼女のために自分のできることが見えた気がした。












(Side:キョーコ)

あの日、敦賀さんと私の間の蟠りが解けて以来、彼は私の往来を歓迎してくれるようになった。

それどころか、彼の方から私の元に訪れてくれる。

一度、私が彼の勉強の邪魔をしているのではないかと尋ねると、

「そんなことないよ?君が色々教えてくれるから、勉強が捗るくらいだ。」

そう言って、優しく笑ってくれた。


あの出来事があった次の日、彼は彼の本当の姿と、それに纏わる秘密の話をしてくれた。

そうして私に、私の知る、日本の色んな事を教えてほしいと頼んだ。

私は自分の歴史を何も覚えていないけれど、なぜ?と思うような沢山の色々な知識を持っていて、彼が秘密を話してくれたあとに彼と作ったハンバーグも、シェフの方が驚くくらいの手際と出来だった。

私は自分が敦賀さんの役に立てるかもしれないと嬉しくなった。

けれど、私は貰ってばかりだ。


私は敦賀さんと居ると『普通』になれた。

敦賀さんと一緒にいると、お屋敷の人たちともお話しできたし、お手伝いだって申し出られた。

人と触れ合うのが怖い私に温もりを与えてくれた。

いつも微笑んで、『私』を許してくれた。


私はいつも、返しきれないほどに敦賀さんに与えられるばかりで、申し訳なさでいっぱいで、引け目を感じずにはいられなかった。

そんな時だった、彼が私に『お願い』をしてきたのは。


「お外?」

「そう、何気なく通りを歩く日本人が、一体どんな風に過ごしているのか知りたいんだ。言うなれば・・・日本人ウォッチング?」

「私と?」

「そう、駄目かな?俺一人だと目立ってしまうし・・・分からないことがあったらすぐに君に聞けるだろう?」

そう言って、敦賀さんは『俺を助けてくれないかな?』と、困ったように笑った。


私と彼はそれ以来、度々そうして外を歩いたり、カフェで通りを眺めたり、電車に乗ってみたり、短い『常識旅行』を繰り返した。

そうして彼は少しずつ『日本人』敦賀蓮を完成させていった。

その隣で私も少しずつ『自然な』宝田キョーコを振る舞えるようになっていった。


この頃、私の胸の中にはある小さな想いが芽生え始めていた。

敦賀さんにも秘密のこの想い。

敦賀さんの隣で、彼の努力を肌に感じながら、私の想いは少しずつ、ううん、急速に育っていった。


そうして育った蕾が、今にも花開きそうな、ある日のことだった。

私に、開花の時を迎えさせる出来事が起きたのは。





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再構築りれいしょん④

2011.04.26.23:56


ぷらん



(Side:蓮)

最近キョーコはすっかり人ごみに慣れ、俺がいなくても人とスムーズに話が出来るようになった。

嫌悪や恐怖はあるものの、交流を重ねるうちにそれを薄れさせることが出来るようになったし、なにより心に過負荷がかからなくなったようだ。

だから今日はキョーコと休日の繁華街へと出かけた。

人が多いし、キョーコが特に苦手な『若者』が沢山いるから。

キョーコ本人にあまり自覚はないようだが、彼女の中には特に嫌悪や恐怖の対象となる人物像があって、『集団行動をとる女の子』と『ロック系の服装をした美男子』、それに『キャリアウーマン風の真面目そうな女性』や『和服姿の細身の中年女性』などがそれに当たる。

これはあくまで、俺が彼女を観察して得た推測だから、どこまで正確かは解らない。けれど、彼女の生い立ちとリンクするものがあるから、あながち間違ってはいないと思う。

何にしても、彼女がそういう人種と関わることがあった時に苦労しないよう、俺の勉強も兼ねてこうして外に連れ出した。

通りをキョーコと歩いていれば、視線が集まり、時には俺よりも10近くは年上だろう女性が声をかけてくる。

実年齢よりも僅かに幼く見えるキョーコと、実年齢より大分上に見える俺では、恋人同士には見えないらしい。

年の離れた兄妹にでも見えるのだろう。実際、俺たちの今の関係は友人よりも近い、兄妹のようなもの、あるいは親友だろうか。

何となく、5年前と変わらない30cmの身長差が疎ましかった。


キョーコと腕を組みながら歩く。

キョーコは人込みはやはり心細いのだろう、普段は恥ずかしがってしない行動を無意識に行う。

こういう庇護を求めるような彼女の態度と、それを受容する俺の態度が余計に俺たち『兄妹』に見せるのだろう。

この日もやっぱり、幾度かあった女性からのお誘いを躱しながら、俺たちは洋服店を覗いたり、通りを散策したりして『日本人観察』をする。

俺たちは持ちつ持たれつ、互いを支え合いながら過ごし、数ヶ月前からは想像もつかないほど、日々は穏やかに過ぎていった。


通りに面したカフェで休憩をしていた時、男性が一人近づいてきた。

「すみません、少しお時間よろしいですか?」

そう言って、自己紹介と共に名刺が差し出される。

予想はしていた。ナンパが目的でないなら後は芸能事務所への誘いだ。自分の容姿が秀でているのは自覚がある。自分に流れる血の半分には『生きた宝石』と讃えられる女性と同じものが流れているのだから。

何にしろ、俺は既に来年にはLMEからデビューが決まっているし、そもそも秘密を抱えている以上、LME以外からデビューなど出来ようはずもない。

だが、今日の誘いは俺へのものではなかった。

名刺はキョーコへと向けられていた。

目の前に自分へと向けられた芸能事務所の名前が書かれたカードを、キョーコは信じられないとばかりに見つめた後、それを受け取らずに頭を下げた。

「ごめんなさい」

キョーコが申し訳なさそうに言う。当然と言えば当然か。彼女は業界最大手のLME社長の養子である。(彼が後見人と言う意味では自分も似たようなもではあるが)

彼女のきっぱりとした態度に、性質の悪い相手でもなかったのだろう、相手はすぐに引いてくれた。

去っていくスカウトの男性を見送ってから、キョーコの視線が不意にこちらを向く。

彼女は体も俺に向き直ると、おもむろに口を開いた。





(Side:キョーコ)

「敦賀さんに、聞いてほしいことがあるんです。決心がついたら、敦賀さんに1番に聞いてほしくて。」

ずっと、胸に秘めていた思い。

自分にできるのだろうかと、ソレをするのは特別な人だけなのではないかと、自信がなかった。

でも、今日、恐らく10代の少女で探していたにしても、目の前にこの敦賀さんがいながら、自分が芸能事務所に誘われたこと。それがとうとう最後のひと押しとなった。

私が突然、あまりに真剣な態度をとった所為だろう。敦賀さんが戸惑ったような顔をしている。それでも彼は、すぐに聴く体制になってくれた。

「私、役者になりたいんです」

切っ掛けであるあなたに、1番に伝えたかった。






(Side:ローリィ)

蓮とキョーコ、二人が一緒に過ごすようになって早3ヶ月、二人の情緒は瞬く間に安定していった。

更に、それに留まらず2人は互いに良い影響を与えあっているようだ。

蓮が凄まじい速さで『日本人』を吸収している事も、キョーコが無理なく社交能力を学習している事も、互いがいてこそのものだろう。

これは嬉しい誤算だった。

そして今日、蓮と出かけていたキョーコからの、『父』への初めてのお願いも。



夜、プライベートルームで寛いでいると、キョーコがやってきた。

話があるというので、正面のソファーに座らせる。

「ぱ、・・・ぱ、・・・お父さん!!」

緊張の面持ちのキョーコには悪いが、最近呼んでくれるようになった俺へのその呼びかけに、思わず笑ってしまった。本当は『パパ』と言う呼び名で呼んでほしいのだが、まだ難しいらしい。それでも、『宝田さん』からの進歩を思えば嬉しくなる。

「お願いがあります」

真剣な彼女に、自分も表情を整えて向き合う。

「おう、なんだ?言ってみろ。可愛い娘の願いを叶えられない俺だと思うなよ?」

彼女が、戸惑いと照れくささをない交ぜにした顔をする。しかし、それをまたすぐに引き締めて言った。

「私に、役者になるお勉強をさせてください。」

そう言って、綺麗なお辞儀で頭を下げ続けた。

「おい、顔を上げろ。役者の勉強をしたいってことは、役者になりたいってことでいいんだな?」

「はい」

「それは、蓮の奴と一緒にいたいからか?」

もし、そうであるなら許可できないと思った。

この二人は、今は互いに一緒にいることがプラスになっているが、相手がいなければ生きられない、そんな依存をしてしまっては、互いのお陰で成長したはずのものが無為になってしまう。

だから、キョーコが蓮の傍に居たいがために蓮と同じ世界に行きたいというなら許可は出来なかった。

けれど、キョーコは首を振る。

「違います。敦賀さんが切っ掛けですから、確かに関係はありますが」

「切っ掛け?」

「はい。敦賀さんは、お芝居をするために容姿も名前も何もかも捨てて、今は馴染みのない文化の中で溶け込もうと必死に努力をして。敦賀さんはすごい人です、私は敦賀さんのこと、ぱ、パパと同じくらい尊敬しているんです。その敦賀さんがそこまで情熱をかけるお芝居を、私もやってみたい。敦賀さんと同じ世界を見て、何もかも忘れてしまった分まで、『今』の自分を作りたいんです。」

キョーコがそう言って胸の前で拳をキュッと握り締めた。

ひたと俺に視線を合わせてくる。

「だから、お願いします!!」




(Side:蓮)

今日の俺は機嫌が良かった。

何と言っても本日から久々の『京子』との仕事である。


あの日、キョーコに役者になりたいと、芝居をしたいと告白されたとき、俺は咄嗟に反対しようとした。

けれど、言葉が口を出てしまう前に気づいてしまった。

俺は今、自分のためにキョーコの願いを退けようとしている、と。


キョーコは記憶を失ってしまってもキョーコだった。俺の、俺だけの魔法使いだった。

上手く飛べない俺に、風を送り込み、羽を作るのを手伝ってくれる。

彼女の決意を聞いた時、彼女が居なくなってしまう恐怖に、俺は、優しい魔法をかける彼女に、呪いをかけようとしたのだ。

俺の元から飛び立てなくなる、身勝手な呪いを。


けれど、そんな自分に咄嗟にでも気がついてしまえば、口を開くことなど出来なかった。

彼女から見れば、俺は随分と愕然とした顔で黙りこくっていたに違いない。

そんな俺をキョーコはどう思ったのだろう。

自分が役者を志した切っ掛けを話しだした。


このとき、俺は改めて実感したんだ。あぁ、俺ってなんて、現金なんだろうって。

俺は、俺と同じ世界を見たいと、俺が情熱を傾ける世界で自分を作りたいという彼女に、すっかり絆されてしまった。

宝田社長からの許可をもらい勉強を始めたキョーコに、俺もこの道を志す先輩としてアドバイスをし、同志として切磋琢磨した。

キョーコは素晴らしく優秀な生徒だった。彼女との『勉強会』は楽しくて、俺自身にも実りのあるものだった。


俺が一足先にデビューすると、彼女も追いかけるように子役と、雑誌モデルとしてデビューした。

デビューした後も、俺が社長の屋敷を出た後も、俺たちの勉強会は続いた。(因みにそれには、俺がいまだに続けている『日本人観察』で湧いた疑問の解消も含まれる)

互いを磨き合っているうちに、当時19歳の俺と、15歳の彼女はいつのまにか、LMEの看板若手俳優と呼ばれるようになっっていた。




(Side:キョーコ)

私ももう17歳になって、子役以外の仕事が来るようになった。

今回の仕事である『DARK MOON』は初めて子役以外で出演するドラマとなる。

子役と呼ばれる年齢を抜けてから、映画やCM、あとはモデルの仕事もあったけれど、ドラマとの縁がなかった。

けれど、今回のドラマの監督に、映画での演技を目に留めてもらい、主要人物に抜擢された。

(そして、その記念すべきドラマの主演は敦賀さんなのよ!!)

私の兄みたいな親友、敦賀さん。

初めての女友達で親友のモー子さんとは、お話しすることも、遊ぶことも違うけど、二人とも私の大事な親友。

(親友が2人もいるって素敵だわ!!)

私は事情があって学校に通った記憶がないから、友人が少ないし、そもそも敦賀さんのお陰ですごーーーーくマシになったけれど、私の人間嫌いは未だに健在だったりする。

『そういう病気』だから第一印象の良かった人なんて敦賀さん以外にいないけれど、だからこそ、印象の悪い人に、そう感じていると悟られないすべも身に付いた。

それに大概は別に悪い人ではないのだ。私が『人=嫌なもの』と無意識に認識しているだけで。

自分がそう言う歪んだ視点で人を見ているのは分かっている。だからこそ、私は冷静に人を見ることが出来るようになったと思う。主観的判断が頼りにならないのだから仕方がないけれど。

それでも、やっぱり、途轍もなく印象の悪い人はいるのだ。

(この人なんてそうだな)

ロビーで流れる映像には、私と同い年の、最近デビューした歌手が映し出されていた。

『DARK MOON』のキャストとの顔合わせ、兼、打ち合わせを終えて、私は局のロビーで敦賀さんを待っていた。

お互い、若手の中ではLMEの看板などと呼ばれて、忙しい私たちだけれど、今日のように早めに上がれる日は、私の父でもある社長のお屋敷で『勉強会』をするのだ。

主演の敦賀さんは監督とまだお話しすることがあって、ロビーで待ち合わせとなった。

そのとき、私は声をかけられた。

なんだかすごく、いやな声に。



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再構築りれいしょん⑤-前

2011.04.29.06:00


ろけいしょん<前>


(Side:尚)

「おまえ、キョーコか?」

疑問符を付けたが、確信があった。

はたして、振り向いたその顔は間違いなく幼馴染、『最上キョーコ』のものだった。

「なんでお前がこんな所にいんだよ」

声が不機嫌になったのは仕方のないことだ。

こいつは俺のもののくせに、ある日突然に姿を消したのだから。



今からだいたい6年前、俺の幼馴染は突然姿を消した。

最初、俺はそれに気がつかなかった。

あいつが旅館の手伝いをしている間は俺は外で遊んでるんだから、ちょっと見かけなくてもすれ違っているんだろうと思っていた。

それでも、いつも付きまとってくるキョーコがあまりにも姿を現さないから、実家にでも帰っているのかと両親に聞こうと思ったら、何やらバタバタと慌ただしかったり、宿泊客とは違うらしい客人の対応に追われていて、聞くに聞けなかった。

そんな慌ただしさが落ち着いた後も、キョーコは姿を見せなかった。その頃には俺も尋ねるタイミングを逸してしまって、学校にもウチにも、そしてアイツの実家にも居ないらしいキョーコに、漸くもうココには居ないのだと理解した。

理解したら腹が立った。キョーコのくせに、アイツは俺に何の断りもなく消えたのだ。



キョーコが居なくなった後も、俺はよくキョーコのことを思い出した。

最初は宿題が面倒な時、キョーコにさせようとして、いないことに気づいた。

次はバンド活動の時。資金繰りに悩んでいて、こんな時にアイツがいれば、喜んで小遣いでも何でも差し出すのに、と。

デビュー前後もそうだ。俺は大人しく高校に通っているふりをしながら、歌の録音テープを芸能事務所に送り続けた。それが評価されても、波に乗って世間の認知度が上がるまでは、事務所からの生活面でのバックアップは最低限のもので、高校には通えたけど、旅館育ちの俺にとって既製品の食事や家事はまさに地獄だった。こんな時に何でキョーコの奴がいないんだと何度も腹を立てた。



だから、局のロビーでその姿を見たとき、一発でキョーコだとわかった。







(Side:キョーコ)

声をかけられ、その声に、すごく嫌な印象を受けた。

だから、振り向いてすごく後悔した。

声を聞いた時の比ではない。途轍もない嫌悪感に吐き気がする。

目の前の男が何か言っているが、ノイズが交じり認識することが出来なかった。

(こんなの、久々。吐きそう・・・ここ、局のロビーなのに)

目の前が滲んで、相手の輪郭がぼやけるも、この男が、先ほどまでテレビに映っていた『不破尚』であることは何とか理解した。


とにかく離れたくて、ふら付きながらも立ち上がる。

一歩足を引き、二歩目を下がろうとした時、

ガッ

「キャッ―――むぐ」

掴まれた腕に悲鳴を上げそうになった時、後ろから口をふさがれた。

優しい腕が私を包み、その腕は素早く私を後ろへと下がらせる。

目の前には、大きな背中。

「つ、敦賀さ、」

私の手を包む、後ろ手にしたままの左手が只管に温かかった。





(Side:蓮)

監督との話を終え、彼女の待つロビーへ進んでいたとき、遠目に彼女に近づく男が見え、俺は社さん言うところの『優雅な瞬間移動』でそこへと向かった。

彼女に近づく男には覚えがあった。

先日社長に見せられた要注意人物―――――不破 尚・・・・嘗ての彼女の『王子様』、不破 松太郎だ。





その日俺は、緊急で社長室に呼び出されていた。

隣に社さんを伴ったまま、社長から1枚の写真付きの用紙を渡される。

タイトルにはでかでかと

「要注意人物、ですか?」

「ああ、彼女よりもむしろお前のかもな?」

にやん、とする社長が俺に言う『彼女』など、決まっている。

「キョーコに関係があると?」

タイトルと共にさっと目を通した内容には、彼が最近デビューしたアカトキの歌手であることと簡単なプロフィールしか載っていない。

社長はその問いには答えず、社さんの方を向いた。

「社、出来る範囲で構わん。その男をキョーコに近づけるな」

そう言って、社さんに目で退出を命じる。

俺にはソファーを顎でしゃくった。

社さんを退室させるということは、彼女の過去がらみなのだろう。

俺は社さんに『よろしく頼む』と意味を込めて頭を下げ、ソファーに座った。

社さんは俺とキョーコの兄のような存在だけれど、だからと言ってキョーコすら知らないキョーコの過去を話すわけにはいかなかった。

俺はキョーコの過去をもともと多少なりとも知っていて、さらにキョーコが懐いた為の例外だったのだろう。キョーコが社会復帰するに当たっての導き手として、ナイトとして。

互いに席に着いた時、社長が先ほどの俺への質問への応答をした。

「その男は、例の旅館の息子でキョーコの幼馴染だった者だ。最近アカトキから歌手としてデビューした。」

そこで社長が葉巻をふかした。吐き出す息が重い。

「例の旅館が彼女を引き取りたいと言っていたからな。一応、常に動向を探らせていたんだ。彼女がデビューしてからは特にな。」

「それで、どうだったんです?」

「キョーコは化けるからな。デビューしてから素のビジュアルを晒すような機会も避けてきたし」

そう言うローリィに、内心やっぱり、と思った。京子は露出が少ないと思っていたが、意図的であったらしい。

「デビューしても彼女に気づいている様子はなかったが、息子がデビューしてきたからな。直接会うなり、素の彼女に会えば気付かんとも限らん。彼と会わせることで、心にいらん波風を立てることもあるまい?」

その言葉に、ローリィの屋敷を出て少したった日のことを思い出した。

キョーコは蓮が宝田の屋敷を出てから、不眠に陥ることが度々あって、普段は薬で眠るものの、あまりに長く続く時は、屋敷を出た蓮が泊りに来て、キョーコと一緒に眠った。

蓮が屋敷に来る前もあったことらしく、蓮と言う精神を安定させる存在が出来、なりを潜めていたのが、蓮がそばを離れたことで再発したらしい。

蓮が屋敷にいれば収まるかと思われたが、一度離れてしまったことで、本当に『傍』にいなければ眠れなくなってしまった。ゆえの同衾である。

そうして蓮に迷惑をかけることをキョーコは相当気にしていたけれど、このことは蓮の中の何がしかの満足感を甚く満たしてくれた。

けれど、売れてくるにつれ地方ロケや海外での仕事も多くなる。

だから、少しずつ、キョーコが一人でも、蓮や薬に頼らずに眠れるように慣らしていき、約1年、13歳を少し過ぎた頃には一人で眠ることが出来るようになったのだった。



ロビーでなど待たせるべきではなかった。

キョーコを後ろ手に庇いながら、目の前の男と対峙する。

「ンだよお前?オレ、そいつに用があるんだけど」

「悪いが彼女とは俺が先約なんだ。彼女に用があるなら事務所を通してくれないか?」

「プライベートに事務所なんざ関係ねーだろ。オイ、キョーコ。ソイツとの約束なんて次でいいだろ。」

そのあまりの言いように思わず苦言を呈する。

「君は、自分が優先されるのは当たり前だとでも思っているのか」

「キョーコが俺を優先するのが当たり前なんだよ」

人目に付くこんな場所、ましてや芸能人である自分が暴力など揮えはしない。それがこんなにももどかしく感じたのは初めてだ。

「君は、何か勘違いしているんじゃないか?」

「あ?」

握っている彼女の手から、徐々に震えが収まっていくのを確認し、彼女に声をかける。

「キョーコ、彼と会った事は?」

彼女が何度も横に首を振る。

俺は目の前の男が不愉快気に口を開こうとしたのを、遮るように言った。

「どうやらキョーコ違いのようだね?それとも君は彼女に対する妄想を抱くファンだったのかな?」

「フザケンな!!テメェの所有物見間違えるほど耄碌してねぇんだよ!!」

こいつは、どこまで!!

思わず、荒んでいた頃の自分が出そうになったその時、不破の怒声にびくりとした彼女に、いつまでもココにいる訳にはいかないと思いとどまる。

囲んでこそいないものの、遠巻きに此方をチラチラと意識する視線を感じた。

張りめぐらせた意識は、写真など撮られていないことを知らせてくれたが、明日には噂くらいになっているかもしれないし、このままで居ればいつカメラを向けられてもおかしくはない。

「ふぅ、本当に居るんだね?君みたいな危ない妄想癖の人間って。悪いけど、彼女が怯えている。俺たちはもう行くよ。君も芸能人なら、もう少し周囲の目を気にすることだね?心を病んでいると思われるよ?」

その時、彼のマネージャーらしき女性が来た所で、俺はキョーコを伴ってその場を去った。

ヤツはマネージャーに宥められながらも、キョーコの所有を主張し続ける。

俺は彼女に気がつかれないよう苛立ちを、噛みしめた奥歯に隠した。








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再構築りれいしょん⑤-後

2011.04.30.06:00


ろけいしょん<後>

(Side:キョーコ)

優しい声、温かい体温。安心できる、気配がする。

「キョーコ、キョーコ。大丈夫だよ、傍にいる。俺が守るから、安心して眠って?」


広いベッドに、天蓋はない。

ここは元蓮の部屋で、今は蓮専用の客室だ。

最近キョーコはここで眠るのが日課になっていた。

ここ数年はすっかり形を潜めていた不眠症が、先日の一件以来再発してしまった。安らぎを求め、少しでも蓮の気配の残るこの部屋で過ごすようになって三日。薬を飲んで僅かばかりの睡眠を得る日々が続いている。

その僅かな眠りから目覚めると、そこには蓮がいた。

キョーコはほう、と息をつく。

12から13歳までの1年間そうしたように、隣で眠る蓮にすり寄る。

そこは相変わらず温かくて、いい匂いがして、ひどく安心した。

しかし、あれ?、と思う。

(何か、安心するのに、緊張する・・・どうして?)

チラッと顔を上げると、そこには秀麗な顔があって、顔に血が上った。

そんな気配に気がついたのだろうか。蓮の瞼がゆっくりと持ち上がり、キョーコを見た。

『どうしたの?』とでも言うように微笑む彼に、何でもないと首を振り、僅かに体を離した。

キョーコは唐突に気づいてしまったのだ。

まだ僅かに子供の面影を残していた嘗ての少年は、すっかり大人の男になってしまったのだと。

そうすると、引きずられるように17歳の自分までもが意識された。

まだまだ少女だけれど、それだけじゃない。12や13歳の頃と比べると圧倒的に『女性』になってしまったのだ。

体も、そして心も。






(Side:蓮)

俺の顔を見上げ、ほんの僅か離れた彼女の体を、引き寄せることは出来なかった。

暗闇の中、表情も、顔色も分からなかったけれど、その動きだけで自分が男として彼女に意識されたのだと気がついてしまったから。

と同時に、自分の心の中にあった、名前がつけられない靄の正体も分かってしまった。



今日、仕事を上がった直後に社長から連絡を受けた。

曰く『精神安定剤を投与するぞ』

これは数年前までは度々言われた言葉だ。キョーコが重い不眠に陥る毎に。

その言葉で俺は、やはり先日の不破との一件が彼女の精神に負荷をかけていたのだと悟った。

あの日、社長宅へ向かったあと、キョーコの気を紛らわすためにも敢えていつも通りの『勉強会』をした。

何とか体の強張りは解けたけれど、あの日、俺が専用のゲストルームに泊っている間も彼女は眠れていなかったのかもしれない。

神経過敏になりやすい彼女を気にして、寝顔を身に行かなかったことが悔まれた。



キョーコにとって俺は『男』を意識してもやっぱり『お兄ちゃん』で『親友』なのだろう。

昔とは違う距離で、それでも同じベッドの上で、彼女はいつしか眠りについていた。

俺を男として意識する彼女に、俺もまた気がついてしまったというのに。

自分がキョーコを『女』として意識している事に。


先日の一件以来、胸に蟠っているものがあった。

彼女を自身の所有物だと言う不破は、『男』として俺の、キョーコの前に立っているように思えた。

所有権の主張、相手が自分にとって、自分が相手にとって特別であることの誇示。

その行動には覚えがある。

キョーコと再会してしばらく、外との接触を少しずつ増やす彼女に、自然と俺は彼女を『キョーコちゃん』ではなく『キョーコ』と呼ぶようになった。

今の彼女にとっては初めて俺から呼び捨てにされた時、彼女は『嬉しい』と言って笑った。年上の俺を呼び捨てには出来ないから、俺に『キョーコ』と呼ばれるのが嬉しいと。

俺は、彼女以外の誰をも呼び捨てにしたりはしない。

彼女だけが俺の特別なのだと、そんな主張の込められた呼びかけだった。

『キョーコ』と呼ぶたびに、それに笑って答えてもらえるたびに、俺が彼女の特別になれた気がした。


『特別』の意味は、きっと彼女の王子様。


呼び捨てにしないでと言った、記憶を失う以前の彼女。その言葉に、訳のわからないもやもやを抱えたのを今でも覚えている。

俺にとって彼女は、そんなにも前から『女の子』だったんだ。

自分の感情の正体、それは『嫉妬』なのだと、ようやくピースをはめられた気がした。




同時に、社長から言われた『手を出すなよ』の言葉の意味にやっと思い至る。

『俺が彼女に手をあげるわけないじゃないですか』

ぽけらん、と社長にそう返してしまった過去を消し去りたい。

どうりで爆笑されるわけだ。





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再構築りれいしょん⑥-前

2011.05.01.06:00




でぃべろぷめんと<前>



(Side:キョーコ)

キョーコは悩んでいた。それはそれは大いに。

原因は最近彼女の近辺に神出鬼没で現れる『不破尚』、ではなく。

(いえ、原因はもとはと言えば彼なのだけど)

敦賀蓮、その人である。

不破尚との邂逅以来不眠に陥っていたキョーコ、そこで、数年前と同じ特効薬が投与された。

キョーコは現在、数年前までは、同衾しても安らぎだけを与えてくれていた彼の存在に脅かされていた。

それは何も、蓮が一緒に眠るキョーコに警察を呼ばれるような悪戯をするだとか、そういうことではない。

(そもそも、コッチが落ち着いたと思った頃にまた現れる不破さんが悪いのよね。ええ、ええ、敦賀さんが悪い訳ではないわ)

キョーコはソファーの上に転がった。

(むしろ、悪いのは私よね)

小さくため息をつく。


今キョーコが居るのは、宝田の屋敷の自室である。

時間は夜10時を回った所。

最近は心に付きまとう妙な不安感も収まり、そろそろ一人でも眠れるだろうか、と思われた所で、また今日不破尚が現れ、元の木阿弥となったのである。

(でも、初めて会った時より随分ましよね?)

最初、見るだけで吐き気を催していた顔も、蓮や社を伴っていたことも相まって、表面上は普通に接することが出来るようになった。

しかし、接触の度毎に訪れる不眠を考えれば、実際の精神的な負担は推して知るべし、と言ったところである。


キョーコは寝間着に着替え、クッションを抱きしめながら蓮を待っていた。

自分がまだ12,13歳だった頃には当たり前だった、『一緒のベッドで寝るために蓮を待つ』と言う行為が、今はどうしようもなく恥ずかしく、キョーコは手元のクッションに顔をうずめる。

キョーコにとって、蓮は最も親しい友人の一人であり、兄のような、家族にも似た存在だった。

それが実は、友人だとか兄だとか言う前に、一人の『男』であったと気がついてしまい、キョーコは混乱していた。

この動揺が落ち着くまで、とにかく蓮と距離をとりたかった。

にも拘らず、完全に自分側の責任でそれもままならない。不眠を耐えて仕事に影響を出すなどしたくはなかった。

そしてそれを防ぐには、蓮の協力が不可欠なのだ。薬に頼っても、心の安息は得られないのだから。そうして、蓮に迷惑をかけている。

しかし、キョーコは蓮が笑って許容してくれるのをいいことに甘えている現状も自覚していた。

だからこそ、そんな我儘を通す自分が、自ら蓮と距離を取るようなまねもできはしない。何となく、二人の今までの関係上存在しなかったこの感情を持ちだすのはタブーのような気がした。

それでも芽生えた意識が、布団の隙間を僅かに開けさせてしまう。しかし、蓮は何も聞いては来なかった。


コンコン


ドアをノックする音に、キョーコはため息を飲み込む。

唯一心の底から安心できる彼との関係を壊す要素なんて、知りたくはなかった。ずっと、妹のままでいたい。

かつて、彼がそうしたように、今晩もキョーコは、自らの手で彼を自室に招き入れた。




(Side:社)

「あ、」

キョーコちゃんが小さく声を上げた。

俺の後ろにサッと隠れるキョーコちゃん。進行方向には最近『DARK MOON』の現場近くに度々出没する、要注意人物『不破尚』の姿があった。



今俺は、蓮から離れキョーコちゃんに付いている。

と言っても、蓮もキョーコちゃんも、もともと俺がスケジュール管理をしている担当芸能人であり、俺が初期からマネージメントしていた二人が二人、LMEの若手看板俳優になるんだから俺も鼻が高い。

とは言え、最近子役から抜けたばかり、かつ露出の少ないキョーコちゃんより、抱かれたい男No.1などの称号を取る蓮の方がファンに囲まれやすい訳で、普段俺が現場について回るのは蓮の方。

けれど、最近キョーコちゃんに例の『要注意人物』が付きまとっていて、俺がガードに付くことになった。

更にこれは普段からしていたことだけど、二人の早く上がれる日を合わせたりといったことに加え、少しでもキョーコちゃんが蓮の傍にいられるように、仕事の時間と現場を調整しまくった。

キョーコちゃんは不破が現れる毎に酷い顔色になっていたけれど、最近はそれも落ち着いている。でも、それは表面上のことであるのは判っていた。蓮が相変わらずキョーコちゃんと寝てる、いや、眠ってるみたいだから。(正直、この話を初めて聞いた時は思わず『犯罪!?』とか思ったよ。)

俺が不破を見ていてなんとなく思ったのは、キョーコちゃんにはもともと苦手なタイプの人間が居て、不破はまさにそのど真ん中だけれど、どうにも彼女の憔悴の仕方が普通じゃないってこと。俺はもしかして、キョーコちゃんは、不破が苦手なタイプに属するのではなくて、不破タイプの人間を苦手としているのではないかと疑っている。

蓮や社長は何か知っているみたいだけれど、俺には知らされていないから、かなりナイーブな問題なんだろうと、嫌でも察しがついた。

不破を知らないキョーコちゃんと、キョーコちゃんにイヤに馴れ馴れしい不破の関係は分からない。俺の中では、不破がキョーコちゃんに対する妄想を抱くストーカーって線が一番有力。で、付け回す不破をはっきり姿を見ないまま感じ取っていたキョーコちゃんは彼みたいなタイプが苦手になったんじゃないかとか、ハッキリしないだけにかなり気になる。

なんにしろ、予測が当たっていようがいまいが不破の奴をキョーコちゃんに近づける気はないけどね。不破のヤツがキョーコちゃんでどんな妄想をしているのかは知らないが、とにかく彼の態度は酷過ぎる。


(本当、彼にもいい加減にしてほしいよ)

もともとキョーコちゃんを探すなり待ち伏せするなりしていたのだろう。こちらに気がついた不破が俺たちの方に向かってくる。楽屋には不破とすれ違わなければどうやったって入ることはできない。

「おい、キョーコ」

「あら、こんにちは。不破さん」

予想通り、声をかけてきた不破に、俺を間に挟みながらも、キョーコちゃんが挨拶する。こんなあからさまに高圧的な不破にまで、きちんと挨拶をするんだからキョーコちゃんは本当にいい子だよ。

「私、急ぎますので」

俺はすれ違いざま、不破が動けないようにブリザードを発動した。

キョーコちゃんは彼と言葉を交わすくらいなら出来るようになったけれど、触れられれば未だに表面を取り繕うこともできない位のダメージを受けることになると思う。

以前、すれ違いざまに肩を掴まれた時は本当に大変だったから。そういう事情もあって、問答無用で相手を固まらせることのできる俺がついたのだけれど。

が、動けない体の代わりに、いい加減俺のブリザードにも慣れてきた不破が口を動かし続ける。

「急ぎますので、じゃねーよ!何なんだよお前、無視の次は他人行儀かよ?あいっかわらず色気も胸もねー女だな」

(これだから!!)

この男はキョーコに付きまとっては、要求するか、文句を言うか、悪しざまに言うかしかしない。

これでは、不破がキョーコちゃんとどんな関係であろうと二人の接触を邪魔せざるを得ないというものだ。

不破も芸能人だから、局を出禁になんて出来ないし、そのうえ他事務所だから動向を完璧に把握するなんて難しい。把握した所で、こちらにも動かせる予定と動かせない予定があるのだ。さらに言えば、ストーカーよろしく不破もこちら側のスケジュールを少しばかり調べているとしか思えない頻度で、予定を被らせたりしてくる。

向こうも売り出し中で忙しいだろうに、なぜわざわざこのような子供の嫌がらせじみたことをするのか、俺にはまるで解らなかった。




(Side:キョーコ)

不破は『DARK MOON』の撮影現場近くを筆頭に、ジャンル違いにもかかわらずキョーコの前に度々現れた。だんだん彼にも慣れてきたキョーコは、そうすると少しずつ頭が冷静に働くようになってきて、思い至ることがいろいろとあった。

(不破さんは多分、記憶を失う前の私を知っているんだうな)

数年前、記憶を失う以前の自分について父は、『とても辛いことがあって、それまでのことを忘れてしまったんだ』とキョーコに話した。

キョーコが自分の失われた時間に、一体何があったのか聞きたいと思ったのは、蓮と出会い、蓮との想い出まで忘れてしまった自分に、他にも大切な思い出を失くしてしまっているのではないか、そう思ったからだった。

そんなキョーコにローリィは、『過去を受け止められるくらい、心が強くなったらな』と笑った。その頃のキョーコは蓮がいなければ眠れなかったから、それ以上聞くことはできなかった。

(不破さんと、話がしてみたい)

不破に対する抵抗力のようなものが出来るとともに、彼の言葉も聞き取れるようになったキョーコであるが、彼の言動は余りにも不愉快で、正直なところ、彼と話して楽しいはずもないのことは分かり切っていた。

しかし、彼に対して余りにも強い嫌悪感を感じる自身を自覚しているだけに、キョーコの中には、もしかしたら歪んだ主観で彼を捉えているのかもしれない、という疑念があった。

そしてまた、キョーコにとっての失われた記憶の象徴とは『蓮』だったこともあって、自身の記憶喪失について、辛いことがあったという事よりも、楽しかったことも忘れているのかもしれない、という印象が先立っていた。

そのためキョーコは、不破と話すことで、そんな思い出のかけらを見つけられるかもしれない、と思うと、彼と話してみようという気になれた。

(話をして、もし、昔の話が聞けなくても、もう必要以上に構わないでって言おう。)

不破の迷惑行為に対し、はっきりやめるように言わなかった自分にももしかしたら非があるのかもしれない。キョーコは1度考えだすと、何だかその考えは当を得ている気がしてきた。何と言っても自分の主観は頼りにならないのだから、と。

(そうね。不破さんは、もしかしたら言葉にしなければ相手の心の機微が分からないタイプの人なのかもしれないし)

自身の人の印象に対する歪んだ感覚を重く受け止めているキョーコは、不破尚と言う人物をそう解釈してしまった。







(Side:不破)

『ショーちゃん、カッコいい!!』

『ショーちゃん大好き!』

『ショーちゃんは私の王子様なの』

小さなキョーコは笑いながら俺にそう言っていた。



『キョーコ、彼と会ったことは?』

成長したキョーコが、蒼白な顔で首を振る。何度も何度も。


ドゴッ

楽屋の備品である机が僅かに凹む。

祥子さんがびくりとして、こっちを振り向いた。

「しょ、尚?」

「何でもねーよ」


何もかもが気に食わなかった。

俺を知らないと言うキョーコも、立ちはだかった敦賀蓮も。

色んな意味で、敦賀蓮のことなど知りもしない態度を取ったのは、以前局の廊下で喧嘩を吹っ掛けたときにスカした態度で躱されたコトへの意趣返しだった。キョーコは必ず俺を優先するに決まっているから。

だが、そうはならなかった。キョーコは俺を知らないと言い、口一つきこうとはしなかった。そして、キョーコを背にしたヤツは、表情こそ冷静だったがその眼には焔が燃え盛り、今しも殴り合いになることを予感させた。

その様はまるで、キョーコは自分のものだと主張しているようだった。


「祥子さん。あいつの予定、わかった?」

「え、ええ。違う事務所だから、細かいところまでは分からないけど」

「ソ。いつも通ーり頼むわ」


俺は今、可能な限りキョーコと予定を被らせていた。

キョーコと会ったのは6・7年ぶりだし、俺も髪を染めたり背が伸びたり、格好いいのは変わらなくても、多少外見の変化があった。

それで俺が分からなくなるなんて業腹ものだが、アイツは抜けている所があるから、俺が『ショーちゃん』であることに気がつかなかったのだう。

話しさえできればすぐに俺だと気付いて、昔のあいつに戻るに決まっている。

そうすれば、やたらキョーコを可愛がっているらしい敦賀蓮の顔に泥を塗れるわけだから、それで数年前キョーコが勝手に居なくなった分はチャラにしてやろう。すぐに俺だと気がつかなかった分のツケはこれから払わせればいい。

そう思っていたのに、キョーコの周りはやたらとガードが堅く、なかなかアイツとゆっくり話すことが出来ない。


その苛立ちも、いい加減限界に来ていた。

敦賀蓮にやたらと懐くキョーコ。

キョーコ=京子だと知った俺は、業界のうわさで、子役時代からキョーコと敦賀蓮が親しかったことを知った。ずっと俺一筋だったくせに、俺と離れた途端に別のヤツに、それも選りにも選って敦賀蓮に走るなんざ。

(お仕置きが必要ダロ?)

もう、勝手に居なくなったこともチャラになんてしてやらねー。

自分は誰のものなのか、あいつに分からせねーと。


そんなことを考えていた俺は目の前で繰り広げられた光景に、自分の中の何かが、ぷつりと切れる音を聞いた。









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再構築りれいしょん⑥-後

2011.05.03.06:00


注意:この記事には、婦女暴行に類する性的な暴力描写が含まれます。




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再構築りれいしょん⑦-前

2011.05.04.11:37


注意:この記事には、婦女暴行に類する性的な暴力描写が含まれます。


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再構築りれいしょん⑦-中

2011.05.04.13:12

注意:この記事には、婦女暴行に類する性的な暴力描写が含まれます。




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※サイト案内※
●当サイトにはスキビの考察および二次創作文が展示されています。それに伴い、展示物には性描写・暴力表現を含まれるものがあります。
●取り扱いカップリングは蓮×キョーコ、傾向は「両片想い」「ハッピーエンド」です。
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Author:常葉(トキワ)

どうぞごゆるりとお楽しみ下さいませ。
度々細かな変更はありますが、温かく見守って頂けると幸いです。

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