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幸せの探し方④

2011.04.20.22:44

4話(R)子羊青年懺悔


 「いったい・・・」

 一体、何があったというのだろう。

 仕事を終え、自宅へと帰りついた青年はただ茫然とこの日目撃してしまった出来事を反芻するより他なかった。



 § § §



 この日蓮は、

 キョーコの噂話をする男たちの会話を聞いた。
 仕事の待ちが予定とずれて長くなった。
 いつものルーティンワークでキョーコが現在いると予想される場所の近くを通った。
 キョーコがスタジオ近くの通路で男に声を掛けられているのを目にした。

 ここまでは彼にとって何ということはない、いつも通りのことであった。

 それらは多少不快なこととも言えたが、今日は未必の故意(彼にとってはあくまで『偶然』)が実を結び、蓮は片思いの少女の姿を見ることが出来た。

 だが、次の行動がまずかった。

 いや、それは彼にとって寧ろファインプレーだったのかもしれない。彼女の身に起きた変化に少しでも早く気がつけた、という意味において。



 男に呼び止められる彼女を見たとき、最初蓮は割って入ろうとした。

 しかしそれをすんでの所でやめ、蓮が2人の様子を窺ったのは、キョーコと最後に会った10日前の彼の『指導』(随分私情の入ったものであったが)をしっかり彼女が理解しているかを確認したくなったからだ。

 正直なところ、蓮は彼が話したことの根本的な問題の解決は現状のキョーコには不可能であると考えている。

 いや、考えていたのだ。


 そもそもキョーコの天然という名の曲解思考は、彼女が周囲の男性たちを(蓮にとっては非常に残念なことに彼を含めて)『男』として見ていない為に起こることと言える。

 それは少女の幼馴染、不破尚が彼女につけた傷――― “自分は周囲に『女』として意識されることはない”という思い込みの弊害なのだろう。

 そのため自分がどれだけ周囲の男に『性的対象』として見られても、相手にあからさまなアプローチを掛けられても、気がつくことが出来ない。

 そしてそれに対し無防備でいることが、どれだけ危険なことなのか、それにも考えが及ばない。

 それでも蓮がキョーコに言って聞かせようとするのは、偏に彼女が心配だからだ。

 故に彼は本質を理解しなくとも『先輩命令』によって行動の変化を促せば、彼女の自衛に繋がるという計算のもと10日前の『お説教』を行った。

 その時の蓮は本当に、キョーコの身を案じる一心であり、この程度のことで自分を意識してもらおうなどと言う考えはありもしなかった(そんな期待は枯れてしまっていた、とも言う)。



 だというのに、彼は見てしまった。

 「ど、いう・・・」

 ことなのであろうか。

 彼女に蓮が懇々と言い聞かせてからまだ2週間もたっていない。

 その間彼はキョーコを遠くに見るだけであり、メールを数度交わすだけのかかわりしか持てなかった。

 蓮とキョーコはあの日以来一度も話していないのだ。

 であるのに、今日蓮が偶然にも見つけた視線の先にいる彼女は、『女』だった。

 目の前の『男』をゆるりとかわす姿。態とらしさなど欠片もないとぼけた様子。それは丁寧で嫌味もなく、袖にされた側も彼女に悪感情など抱こうはずもない。

 以前の彼女と今の彼女。傍目には何の違いもなかった。

 しかし蓮には嫌でもわかってしまった。彼は確かに恋愛音痴であるが、このことに関しては相当に手練であったから。

 彼自身も『躱す』側の人間である。それが天然か意図的かなんて、分からないはずがなかった。


 この目に映した光景が信じられない。それが蓮の感じたすべてであり、彼はマネージャーの社から連絡が来るまで、その場でひたすら衝撃をやり過ごすこととなる。


 その後の仕事を、蓮はとにかく集中力を限界まで高めることで乗り切った。

 『敦賀蓮』を演じることでしか、『敦賀蓮』がこなす仕事に全神経を持っていくことでしか、今日という日を乗り越えるすべがなかった。

 社はそんな蓮に“どこって、訳じゃないけど、どこか変だ”と頻りに首を傾げた。


 それでもその日の仕事を乗り切り、社を送って自宅につけば、彼の脳も少しはショック状態から立ち直っていた。

 が、立ち直ったがために余計なことに気づかされる。


 「俺は、・・・何でショックを受けているんだ」

 (自覚を持ってほしいと、無防備はやめてくれと、警戒心を持てと、そう言ったのは自分じゃなかったか?)

 (これで彼女は一つ危険から遠ざかったのに、なにがショックだって言うんだ。)


 少しの冷静さを取り戻していた思考回路は、意外と早く答えを見つけ出した。


“そもそもキョーコの天然という名の曲解思考は、彼女が周囲の男性たちを『男』として見ていない為に起こる”


 蓮はこのことをよくよく知っていた。例えば彼自身のことを雄として少しでも意識しているのなら、深夜に一人暮らしの男の部屋にやって来たりはすまい。

 ジャケットも何もかも、身につけたまま蓮はソファーに仰向けに転がった。いや、倒れた、と言った方が正確だろう。

 (そうか。そう、だったのか・・・。)

 蓮は彼女が彼の真意を理解しないと思った。

 キョーコがラブミー部だから、彼女は愛の全てを拒否しているから。

 それはつまり、蓮の真意を解していた今日の彼女は――恋愛を拒否していない、ということを意味していた。


 (たった10日だぞ? なにがあったって言うんだ)

 10日前、一緒にこのソファーに座った時、彼女は正真正銘のラブミー部員だった。
 先輩の立場で叱り諭すくせにその枠を超えて言及していた自覚がある。嫉妬心やキョーコへ向ける情愛を隠し切れていた自信などない。
 にも拘らず、キョーコから特別な反応――今日のような『女』としての振る舞いは一切見られなかった。


 蓮はあの日からキョーコと口すらきけなかった。メールで当たり障りのないやり取りを3回。それだけが二人の10日間における交流である。

 後はつかの間、蓮が一方的に遠目に彼女を見つめるだけ。


 (誰だ、彼女に『女』を自覚させるような『コト』をしたのは・・・・っ)


 いや、違う。

 キョーコは『女』扱いに戸惑っていなかった。

 いまだ10代の少女でありながら、彼女は『女』の自分を受け入れていた。


 それはつまり、彼女は誰か無法者の手によって嫌でも彼女の中の女性性を自覚せざるを得なくなったのではなく。

 自信を得た、のではないだろうか。

 胸がない、色気がないと、あれほど不破尚に言われた言葉にこだわっていた彼女が、自分自身を『女』をであると認められるほどの。

 (現れたのか・・・・彼女の中で不破以上に大きな存在が。ヤツの言葉を覆すほど、彼女に影響を与える存在が? ・・・・・とんだ伏兵だ!)

 突然現れた第三者を想定していた蓮であったが、ふとある可能性に気付く。

 (いや、まさか、不破本人が以前の暴言を撤回した、のか? だとしたら、俺はどうすれば!?)

 蓮は自身の頭の中で声を聞いた。

 彼女は愛を取り戻したのだと。

 彼女はこれから幸せになるのだと。

 それは自分の冷静な部分が告げる現実だった。

 “キョーコが幸せになる”

 ふっと温かくなった蓮の心はそのまま燃え上がり、灼熱の焔へと姿を変えた。

 (幸せになる? 彼女が? 誰と!? 誰が彼女を幸せにするというんだっ、俺以外の、誰が・・・・!!)


 『敦賀蓮』を演り始めて以来、久しく感じる激しい感情の爆発にちりちりと頭が痛んだ。


 (俺は、如何すればいいんだ。)




 彼女は幸せになるべき人間で、俺は幸せなんて望むべくもない咎人で。

 そのクセ彼女を誰にも渡したくないと、彼女が欲しいと狂うほどに願う。

 こんなにも苦しんで、もがいて俺は何を求めているんだ、まさか彼女に幸せになるなとでも?

 俺のために恋愛における幸福をすべて捨ててくれと?

 恋にこんなにももがき苦しむ俺がそれを彼女に望むのか?



 軽井沢でキョーコから見た『敦賀蓮のイメージ』を聞かされて“鬼じゃないか!”と思ったことがある蓮だったが、成るほど、彼女のイメージは真実、現実に即したものであったらしい、と納得した。

 けれど、それでも、そうではないのだと蓮は言いたかった。



 (違う、違うんだ。俺は誰よりも彼女の幸福を祈っているんだ。それは10年前から変わることのない想いで・・・・・・。ただ、10年前と違うのは、彼女の王子様を『ショーちゃん』には譲れないということ。俺は、妖精の王子様じゃなくて彼女の王子様になりたいんだということ・・・っ!)

 それだけ、それだけが違う。

「俺がっ、この手で君を幸せにしたいんだ!!」


 思わず声に出たのは、正しく本音。

 そのとき蓮は“やってしまった”そう思った。

 彼にはずっと、目をそむけてきたものがある。

 それに気づいてはいけないと、決して思考をその先へと進めはしなかったのに。彼は立ち直りきれていなかったショックからか、ずっと避けていた思考の終着点に、辿りついてしまった。


 (天啓を受ける聖職者の演技をすることになったら、今日の経験を生かすか?)


 それほど唐突に、世界の輪郭を変える衝撃でもって彼は悟ってしまったのだ。自身の真実を・・・・・。





 ――――――俺は、幸せになりたかったのか。






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2012/1/8  リメイク
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Author:常葉(トキワ)

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