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7.君が呼んでいる気がして

2012.02.14.06:00

(改)



 (Side:クオン)

 まさか、と思った。

 その日は朝から雲行きが怪しくて、昼を過ぎてから雨脚はますます強くなっていた。妖精に天気は関係ないから、雨自体は嫌いじゃない。

 ただ、こんな天気じゃキョーコちゃんに会えない。それが悲しかった。

 だから、まさか、と思った。

 野生の獣も姿を隠す雨の世界で、水をはねつける駆け音が響いたことに。
 雨の向こうから、彼女が現れた、ことに。

 「クオ――――「キョーコちゃんっ!」

 一体なんて格好をしているんだ!
 足元にはねた泥も、そこら中についている葉っぱもどうでもいい。

 キョーコちゃんはその体に水色のワンピースをぺったりと張り付かせていた。あまりにも目の毒だ。

 体は勝手に動いていて、その水色は気付けば俺の腕の中にある。
 それを誤魔化すようにまくし立てた。

 「だめじゃないか!こんな雨の日に、こんな恰好で!危ないというのが分からないの?風邪だって引くかもしれないし、暗いから怪我だってしやすい。だいたいキョーコちゃんは――――?」

 「キョーコちゃん?」

 顔はこちらを向いているのに、どこか遠くを見ているような彼女に、まさか体調が既に悪くなっているのではないかと不安になる。

 「キョーコちゃん!キョーコちゃんっ!」
 「え、あ、なぁに?クオン」

 その気の抜けた返事に、俺まで脱力しそうになるが、それを何とかこらえた。

 「どうして、こんな日に来たの?ああ、そんな事よりもこっちに来て」

 聞きたい事はあるが、それよりも雨宿り場所を探す方が先だ。キョーコちゃんは人間なんだから。







 “お化けの木”で雨宿りをしていると、なんだか世界で二人きりのような気がした。そのことを言った俺に、キョーコちゃんは『うん』と頷いたけれど、そこにはどんな思いが潜んでいたのだろう。

 触れ合う肩の温度は均一で、まるでキョーコちゃんが妖精に、あるいは俺が人間になったような心地がする。

 けれど心は一つにはならない。俺たちが結局は妖精と人間でしかないように。キョーコちゃんもきっと、世界で誰かと二人きりになるなら“ショーちゃん”と一緒がいいに決まっている。

 でも、俺は―――――――

 「あのね」

 思考が暗い海の底へと沈んで行こうとした時、キョーコちゃんが呟いた。







 俺はキョーコちゃんを抱きしめた。俺がいる。そう言いながらも、彼女が傍にいて欲しいのは俺じゃないということは分かっていた。
 だから抱きしめるんだ。どこにも行かないように。

 涙にぬれてぐちゃぐちゃの彼女の顔と同じくらい、俺の頭の中もぐちゃぐちゃだった。
 キョーコちゃんの母への生んでくれた感謝と彼女を傷つけることへの罵り。本当のところでは彼女にとって何の支えにもなっていなかった“ショーちゃん”への呪詛。俺で満足して欲しいというキョーコちゃんへの懇願。

 ハッとしたように、俺の腕から抜け出そうとする彼女に、いっそ本当に俺と二人だけの世界へ連れて行ってしまおうか。そんな思いすら過る。

 俺はいつからこんな風に悪い妖精になったのだろうか。
 ただ彼女を守る、優しい妖精の王子様であったはずなのに。



 ふと抵抗が止んだことに気づく。キョーコちゃんは俺の腕の中でうとうとと舟を漕いでいた。
 夢現なのだろう。心もとない口調でキョーコちゃんが言った。

 「なんで、なのかな・・・・・クオンの傍にいると、安心して・・・幸せなはずなのに、ときどき・・・・・・涙が」
 「うん?」
 「ん・・・涙が止まらなくて・・・・もう、ずっと・・・泣いてなんて、いなかったのよ?」
 「ずっと?」
 「そう、ずっと・・・」

 そう言う彼女の頬からは、未だに涙が流れていた。

 「だって・・・・かなしいきも、ちは・・・コーンが・・・・・」
 「俺?」
 「・・・ん、と、魔法の、石、が・・・食べて、くれるの」

 そうか、キョーコちゃんはあの石に俺の名前を付けていたんだ。

 「キョーコちゃん、キョーコちゃん」
 「ぁ、なぁに?」

 キョーコちゃんは、もう殆ど意識はなさそうだった。

 「俺は悲しみを食べることは出来ないけど、かわりにキョーコちゃんの涙を食べてあげる」

 俺は彼女の目じりへ唇を寄せた。彼女はくすぐったそうに笑って、眠りに落ちる寸前、ありがとう、と唇だけで告げた。


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Author:常葉(トキワ)

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