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鏡の国のぼくら⑥

2012.10.02.06:18

今までのお話
プロローグ     



6話:歪んだ鏡をいま、


君が君を愛せるように

君の向こうに見える誰かを、叩き割る






 最後のだめ押しを食らってしまった。文字通り“食べて”しまった。

「京子ちゃん最近急に綺麗になったねぇ」

 だからキョーコは笑ってこう答えた。

「えぇ!? 本当ですか? ありがとうございます!」
「男でも出来たの~?」

 悪気はないであろうが、少しばかり下世話な笑みで司会の芸人が問いかける。

「応援してくださる皆さんのおかげだと思いますから女性の方もいますよ」
「京子ちゃん同性のファン多いもんね」

 すかさずフォローするように、隣に座っていた女性が合いの手を入れた。つい一昨日も異なる番組で一緒になった――ついでに言うと坊としても会ったことのある――モデルほのかだ。

 キョーコはくすぐったいような面映ゆいような気持ちを抱えたまま、この日の収録を終えた。
 ――――エデンで与えられた赤い実の味を思い出しながら。



 § § §


「あ、ありがとう、ございますっ」

 キョーコは声を詰まらせた。

「どういたしまして。このメニューだけは最上さんの弟子として恥じない出来になったと思うんだけど・・・食べてみてくれる」
「はい! いただきます」

 キョーコはいつものテーブルに用意されたハンバーグとサラダ、そして市販のパンへと手を伸ばした。
 切り分けたハンバーグを数度口に運び、そしてキョーコは動きを止めた。その様子を蓮は不安げに見守った。

 料理をおいしいと感じるとき、蓮にとって最大のスパイスは“キョーコが蓮のために作った”ことであるのは間違いない。
 しかしそれでも今夜作ったこのハンバーグは食材・レシピ・手順・タイミング全てにおいてキョーコの作るものを限りなく忠実に再現できた、と蓮は思っている。

「美味しくなかった、かな・・・?」
「ちが、ちがうんですっ」

 そう強く否定したキョーコは、泣いていた。

「・・・――――最上、さん?」

 ドクリ 蓮の心臓が大きくはねた。
 涙に煌めく瞳の中に、自身がキョーコへ抱くのと同種の色を見た気がして。

「・・・こんなにも食に興味を持ってくださった敦賀さんの成長が嬉しくて、感動で涙が止まらないんです」

「え」

 蓮はどう反応を返せばいいのか暫し途方に暮れた。




 それは同居生活1ヶ月目も半ばのこと。

「あれ、やっぱり・・・。
 敦賀さん最近なんだかご飯を食べる量、増えましたか?」

「・・・そう言われると、そうかもしれない」

 蓮のように体格も良く仕事量も多い青年が食べる量としてはやはり少ないが、霞を食って生きていたような以前と比べればキョーコよりも少し多めの量を食べている現在は珍事と言えた。

「急に燃費が悪くなるなんて、体調におかしなところはありませんか?」

 食欲増進に対しこの言いようもどうかと思いつつ、キョーコは念のために訊ねる。

「いや、むしろイイくらいだよ。それに理由は思い当たるところもあるし」

 キョーコはキラリと目を光らせた。

「うかがってもよろしいですか?」

 その問いにか、それともキョーコの様子にか、蓮はおかしそうに笑った。

「話したくないって言っても笑顔で追い詰めてくるんだろう? 構わないよ」
「敦賀さんが普段からなさっていることじゃないですか」

 キョーコは拗ねたように返した。
 二人の間に流れる空気は、これ以上無いほど優しかった。

「単純な話でね、食事の時間が楽しくなったからだよ。俺の子供時代の食生活ってハードだったから食べることそのものに嫌悪感があったんだ。
 それが君と毎日食事するようになって、ご飯は美味しいし、無理矢理口の中にご飯を詰め込まれることもないし―――」

 一体どんな子供時代を!! キョーコは心の中だけで叫ぶ。

「―――それに、君がいてくれるから。だから食事の時間が楽しみになって、自然とたくさん食べられるようになったんだろうね」

 かわりに

「こ、光栄です・・・」

 小さな声で答えるのが精一杯だった。



 それからだ。キョーコが蓮に料理を教えるようになったのは。
 野菜のちぎり方から始まって、包丁の使い方や味噌の溶き方、卵の割り方といった基本中の基本から教え始めて、二人の生活はまた一つ楽しいものになった。
 蓮は料理を教わるときキョーコを先生と呼んだ。大まじめに尊敬を込めてそう呼ばれるのがくすぐったかった。


 そして、堪らなかった。今の、ように。


「本当に、もう、大丈夫ですから」

 止まらない涙を無理に抑えようとするキョーコの手を更に上から蓮が押さえ込んだ。

「今度は美味しさに感動させるからね? 最上さん」

 その言いようがあまりに優しげで、蓮の食生活の進歩・・・涙の理由がそれではないことに蓮は気がついているのかもしれない、キョーコは思った。

「楽しみにしてます。首をなが~~くして待たないと行けないでしょうけどね」
「どういう意味かな」
「そのままの意味ですよ」

 キュラキュラ、ではなく、ムスッといじけた様子の蓮がどうしようもなく愛おしい。
 その様はきっと蓮本来のものではなく、蓮の目に映るキョーコだ。それでもキョーコは愛しいと思った。

「・・・待っててくれるの?」
「え?」
「君を感涙させられるくらい、俺の料理の腕が上がるの。待っていてくれるの?」

 捨てられた子犬のような目も、狡猾な子ライオンの擬態だと分かっているはずなのに。

(う、あぁ・・・)

 キョーコは咄嗟に両手に服の裾を握らせて、全ての感情を凍結させるように無表情を作った。

「最上さん?」
「あぁ、はい。待ちます待ちます」
「良かった!」

 蓮はキョーコ軽い返しにも薄桃色の花を大量に咲かせ、嬉しそうに笑った。

(この、天然遊び人は!! どうしてくれようか!!)

 けれどそんな新たな一面すらキョーコの目に映る蓮なのだとしたら、そんな風に自惚れさせてくれるほど、蓮がキョーコを大切にしてくれているのだとしたら。

 そうしたら―――-

 どこまで行っても、世界は壊れないのかもしれない。

 認めよう。あの日認められなかった蓮の言葉を。受け取るのを怖がり拒否した言葉を。

 もう、耐えられない。期待を押さえ込むことができない。
 ここだけが人間でいられる世界だなんて・・・――自分に言い聞かせ続けることは、もうできない。


 憎しみで作った張りぼての世界。それを壊して、もう一度踏み出すときが来たのかもしれない。




 § § §




『恥ずかしい男ね。そうよね、男に生まれたと言うだけで恥ずかしい、汚らわしい、生きている価値もない』

「うるさい」

『それでもあなたは母様の子なの? 失敗作の分際で女を作ろうと? それで矜持を保とうと? 流石は卑賤な雄だこと。やることが下品ね。そんなだから母様は―――』

「黙れっ!!!」


 蓮とキョーコが演じる“二人のさくら”の主なやり取りは9割9分罵り合いに終始する。必然、彼らが台本を読み合わせれば始まるのは罵倒の嵐だ。


「桜はいつも怯えているんですね」

 顔をつきあわせ、役の解釈を話し合っていた蓮とキョーコは、共通してこの結論に達した。

「結末が結末だからね・・・。俺たちはその締めくくりを納得させられる演技をしないと」
「サクを罵るとき、桜は桜を罵っている。サクが耳をふさぐのは自分のためでありながら桜のためでもある」
「そして二人はその事実に気がつかない」

 蓮は“クオン”と“敦賀蓮”について思いを巡らせた。切り離したくて切り離せない自己というものを彼は身をもって知っている。

 一方キョーコも思いを巡らせていた。“自分”と“ショータロー”について。

「私の桜は、きっとショータローだったんです」

 ぽつり。零された言葉に、蓮は苛立ちを完璧に制御し押さえた。直感的にこれがとても重要なことだと分かっていた。自分にとってのクオンと敦賀蓮に関する事のように、複雑で繊細なことなのだと。

「母に愛されない私。みんなに愛されるアイツ。
 ・・・アイツに尽くして、全てを捧げることで私はたぶん―――アイツの一部になりたかった。愛される存在になりたかった・・・。
 実際私はアイツの一部になっていたんです。自分のパーソナリティーをショータローの中に埋没させて。
 だからいじめられても辛くなかった。私をいじめる女の子はアイツが好きで、私がいじめられると言うことはアイツが愛されていることと表裏一体だったから。
 そしてそれと同じように、私が最上キョーコじゃなくなれば、あの人に・・・最上冴菜に愛されないことはなんの問題も無いはずだった・・・」

「続けて・・・」

 蓮は空気に溶ける様な声で囁いた。ここで止めさせてはいけないと、そう思った。

「でも、アイツにとっては違ったんです。アイツにとって私はアイツの一部ではなく家政婦――外部だった。他人だった。
 そんな当たり前のことが耐えられなかった、だから許さなかった。拒絶して、間違いをしでかしたのはアイツだってことにして、そして憎んだんです」

 キョーコは笑っていた。口元だけは、確かに笑みを刻んでいた。

「だって、そうでしょう? そうじゃないと、可笑しいって事になっちゃうんです。私があの人に愛されないことを正当化できなくなる。言い訳できなくなる。
 ―――私は、誰からも愛されていないって事になる」

 キョーコがスッと真っ直ぐに蓮の瞳を見つめた。

「「でも、もう大丈夫」」

 そろった声に、語尾まで言い切ることは二人とも出来なかった。
 訊ねようとした蓮も、確認しようとしたキョーコも。もう、互いに答えは分かっていた。

「私はアイツじゃない。アイツも私じゃない。お母さんも・・・私の全てじゃない」

 それをもう、キョーコは知っている。




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残りの2話はプロローグ的な感じです。そして相変わらず空気な新開さんの映画。

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Author:常葉(トキワ)

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