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鏡の国のぼくら⑦

2012.10.02.19:40

今までのお話
プロローグ      



7話:その笑顔を独占したいと


歩き出した君を止められない

走り出した君に追いつけない

飛び立った君は、もう触れられない

それならいっそのこと、許しを請う






『私は間違ってない!!
 何で分からないの何で分からないのっ何で分からないのよっ!!
 そんなんじゃダメなの、そんなんじゃ愛されないの! あんたなんかじゃダメなのっ』

「もういい・・・もう、黙れ」

 青年が馬乗りになり、少女の首を絞めた。着物姿の少女の長い長い黒髪が畳の上に広がる。
 少女は藻掻くでもなく相手の首を絞め返した。しかしそれもやがて力尽き、少女は動かなくなる。
 青年はいつの間に包丁を握っていた。これは“母様”が“桜”と一緒に料理をするための包丁だ。幼い少女のために作られた、持ち手の小さな世界に一つだけの包丁。

『さくらさくらさくらさくら
さくらさくらさくらさくらさくらさくら・・・桜っ!!』

 青年は何度も何度も名を呼び、その都度少女の腹に刃を突き立てた。不思議と血は出ない。
 ―――かわりに

『あは、あは、あはははキャハハハハハハハハハハハハ』

 狂ったおもちゃのように少女が笑うのだった。

『アハハハハハ』

 青年もいつしか笑っていた。
 少女は突然笑いを納めた。

『なぜ笑っているの?』
『桜が笑っているからだよ』

 少女は言う。

『僕は桜じゃない』

 青年は答えた。

『君は桜だよ』

 青年の答えは“少女の姿をした桜ではない誰か”にとっていかにも魅力的だった。

『そうか、僕は桜なのか』
『母様は俺を愛してくれない。母様が好きなのは桜、お前だけだからだ』
『そうだ。僕は母様の桜だ』


 青年が大学の講義室で目を覚ました。

「珍しいね、美崎くんが講義中に寝てるところ初めて見たかも」
「“俺”もびっくりした。寝ているつもりなんて無かったから」


 § § §


「凄かったわね。うっかり怪奇映画の撮影所に紛れ込んじゃったかと思ったわ」

 撮影セットから休憩スペースへと歩いてきた二人に、サクラの恋人役を演じる女優が悪戯っぽく声を掛けた。

「えぇ~!? わ、ワタクシ・・・そんなにホラーでしたか!?」

 キョーコは涙目になりながら訴えた。キョーコはこの女優が苦手だったが、それはおくびにも出さないで。

「違う違う、京子ちゃんがじゃなくて二人の雰囲気や和風の室内セットがね」

 女優が妹を宥めるような調子で言った。それに続くように、蓮も撮影が始まってから感じた監督の描く世界観を口にした。

「確かに鏡の国って怪奇ものの空気があるよね。ホラーや超常現象がある訳じゃないんだけど・・・日常や、人間が当たり前に持つグロテスクさとかが・・・」

 言葉を切った蓮は、何事もなかったように話題転換した。

 蓮は本来、あまり役の解釈や世界観を共演者と話すことがないことをキョーコは知っている。
 それは代理マネージャーをしていたときやDARK MOONで共演した経験を経て気付いたことだ。理由は知らない。ただ、そんな蓮の例外である自分が嬉しくもあり誇らしかった。
 それなのに蓮はこの現場では―――この女優相手には、時々こうして普段彼を取り巻く女性には話さないようなことをこぼしていた。

 恐らくそれはこの女優が蓮に懸想しながらも節度を弁えすぎるほど弁えているからだ、とキョーコは睨んでいる。


 § § §


 どうにも、最近キョーコから無言のうちに責められている気がする。蓮は控え室でしょんぼりと頭を垂れた。

「れーん? どうしたんだ?」
「社さん・・・俺、何かしましたか?」

 理由が思い当たらない。しかし気のせいではない。
 いつものようにキョーコを探して視線が彷徨うと必ず目が合う。そのときの批難するようなキョーコの視線を思い出すと心から落ち込まずにはいられない。そうしてぷいっと顔ごと目を背けられるのだから、蓮はベコベコに凹んでいた。

「あぁ~、そのさ。こう言うのもなんだけど・・・キョーコちゃん気付いたんじゃないか?」
「気付く?」
「お前が同居に持ち込んだ本当の理由。最近のキョーコちゃん妙に鋭いし」

 カッと目を見開き、蓮は呆然とした。何故気がつかなかったのだろう。

(流石にキョーコちゃんだって怒るだろ。蓮が仕事にかこつけてキョーコちゃんと暮らしたかっただけだって気付いたら)

 などと社が乾いた笑いを洩らしているのも目に入らず、蓮は頭を抱えて絶望に打ちひしがれた。

(最上さんは、気付いてしまったんだ。俺の汚いやり口に・・・!)

 なぜ今までそこに思い当たらなかったのだろう。これまでの生活で蓮とキョーコは相互理解を深めてきた。深めすぎてしまった。
 ならばキョーコが蓮の隠れた真意に感付く可能性は十分にある。

 蓮はこの生活を通してキョーコに気付いてほしかった。
 愛を望んでいいのだと。愛する心を解き放って良いのだと。

 もう誰にも顧みられなかった幼い時代は過ぎ去り、キョーコはすでに多くの人から愛されていることに気付いてほしかった。
 そうして過去の価値観から抜け出してほしかった。キョーコを苦しめる鎖も楔も裁ち切り幸せになってほしかった。


 ・・・――――それらの願いは蓮の綺麗な建前でしかない。

 本当は違う。蓮の本心はそんなものではない。

 心を通わせて、混じり合わせて、境界線を無くし、キョーコに蓮の持つ汚いサガを植え付けたかった。
 人とは醜いものなのだと――“所詮人間とはそんなもの”なのだとキョーコに思い込ませたかった。
 そうすることで蓮の心が汚くても、卑怯で卑劣でおぞましい化け物を身の内に飼っていようとも“それは仕方の無いこと”なのだと・・・キョーコに思わせたかった。
 汚い自分を、キョーコを汚すことで受け入れさせたかった。


 それは自分自身でも気付きたくなかった、蓮の本心だった。


 § § §


「分からないの、あなたが何を考えているのか、感じているのか・・・もう分からないの」

 すがりつく女性を抱きしめながら、彼は遠くを見ていた。いや、もっともっと近い場所を見ていた。


「君は俺のものだ・・・っ」

 血を吐くように青年は言った。座する少女の顔を鷲づかみながら。

「誰にも見せない外になんて出さない。桜は、俺だけのものだ・・・っ。あの人にだって渡さない・・・・!」

『私は母様の桜よ。失敗作の兄様のものなんかじゃない』

 トンッと軽く少女の手が青年の肩を押した。強く絞められていたはずの手はいとも容易く突き放される。
 青年は恐れるように背後に膝行ったが、少女は歯牙にも掛けず青年の膝に乗り上げた。青年は少女の顔を凝視した。

「違う、お前は俺なんだ。俺の作り出した幻なんだ。空想の産物なんだ。だからお前は俺自身で、俺のものなんだ」

『違うわ、兄様。私はここにいる。分かるでしょう? 触れられてこんなにも暖かいでしょう? 溶け合ってしまいそうでしょう? 溶け合える、別々の体でしょう?』

 少女がスッと青年の首を撫でた。


「美崎くんっ!!」
「うん?」
「また、そうやって・・・どうして私を見てくれないの? いつもあなたは何を見ているの?」
「ちゃんと、君を見ているよ」

 青年は女性に笑いかけながら、自身の首筋にそっと触れた。


 § § §


(もしも、サクが言うように桜がサクのものなら・・・)

 キョーコの中に蓮が混じり、蓮の中にキョーコが混じり込んだ今、自分たちは互いが互いのものだと言えるのではないか。
 ・・・などと都合のいい妄想の世界へ旅立って、蓮はうっかり無防備にほにゃりと笑んでしまった。

 そんな顔をキョーコ以外の人間がいる場で見せたことに、キョーコの頬がまた若干膨らみを増すのだが、残念ながら蓮は気付かないまま本日の撮影も終わりを迎えたのだった。




 あれだけ認めないと頑張っておいて自分でもどうかと思うが、キョーコは蓮が好きだ。ばっちり恋愛対象。オンリーワンにしてナンバーワンのドストライクだ。

 だからキョーコはぷりぷりと怒っていた。やはり蓮は天然遊び人である。あるいは天性の女誑し。
 キョーコは蓮が女性に囲まれることをどちらかと言えば“困りごと”に分類しているのは知っている。
 しかしあれでは蓮を囲む女性ばかりが悪いとは言えない。惚れた女より惚れさせた男が悪いというレベルの魔性である。
 ほいほいと笑顔を振りまく蓮が悪い。

 そんな相手であるにもかかわらず、キョーコは認めた。自分がずっとずっと以前から蓮に恋心を抱いていたことを。


 蓮は鏡のようだった。否、人は誰しも鏡なのだった。
 態度で、言葉で、相手を評価し位置づけ映し出す。そういう鏡なのだった。

 蓮に映った自分はあまりにも今までの醜い姿と違いすぎて、キョーコには受け入れられなかった。でも時間を掛けて、少しずつ、今までが間違いで蓮の映すキョーコが正しいのだと諭された。
 そうして周りを見渡したとき、そこに醜い姿の自分はいなかった。蓮の映すキョーコとはかなり違うけれど、キョーコが愛することの出来るキョーコが映っていた。


 そんなわけでキョーコは怒っていた。
 蓮の目から見るキョーコが、やはり過大評価であることは間違いなさそうだ。
 だからキョーコは蓮に知らしめることにしたのだ。自分は純真無垢な人間ではないのだと。
 たくさんの人が自分を評価してくれていることを知った今、蓮から評価が下がることは嫌だが、怖くはない。それよりもこの大きな誤解の先にある失望の方が恐ろしかった。

 だからキョーコは堂々と嫉妬することにした。堂々と独占欲ゆえに理不尽に腹を立ててやろうと決めたのだ。




「ね、最上さん・・・俺なにか君を怒らせるようなことしたかな」

「え? 怒る? 何故私が?
 手のかかる後輩のために同居までしてくださった先輩に怒るなんて異な事を。
 一体どんな理由があればそんな理不尽なことが起こりうるのか知りたいですね」

(やっぱり、気付かれたんだ・・・)

 謝れば、許してくれるだろうか。蓮は心情的には涙目になりながら逡巡した。しかし最初から道はこれしか残されていない。

「あの、最上さん・・・本当にごめんっ!」
「じゃあ・・・・っ!!」

 バッと頭を下げた蓮が言葉を続けるのを、キョーコは大きな声で阻んだ。

「そうやって謝って下さるなら、他の人にあんな・・・無防備に笑いかけないで下さいっ」

 キョーコがキッと睨んだ。

「へ?」
「私は敦賀さんの特別な笑顔を独占していたいんです!」

 蓮は咄嗟に頬が染まるのを止められなかった。

 二人が互いの思いに気がつくのも近い、かもしれない。



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 といいつつこれから(まだエピローグが入りますが)すれ違いコースですが、なにか?
 鏡の国の続編メモが出てきてそれに書いてあったんです。仕方ない。

 合わせ鏡の無限回廊(仮)

 気持ちが育ち過ぎたキョーコが咄嗟に蓮の嘉月をトレースして反応。冷笑して蓮は恋愛対象になりえないと言う。で、その後冗談ぽくするが、色々うやむやに。
 キョーコ自身はかつきのトレースだとばれないかドキドキ。蓮はショック状態。から始まる物語。

 キョーコの幸せをただただ願う賢者蓮さんと、蓮に執着し固執するキョーコ。

 と書いてあった。
 しかし自分でもその後の展開は分からない。仕方ないよね。書いたのたぶん1年くらい前だし。
 しかし執着キョーコと賢者モードの敦賀氏はいつかカイテミタイナー。

 これを書く日は来るのだろうか。

 そして映画『鏡の国』は本当に空気。トラウマ刺激と同居の取引材料にしかなってないぉ。
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●取り扱いカップリングは蓮×キョーコ、傾向は「両片想い」「ハッピーエンド」です。
●また、管理人は考察上、あるいは二次創作文中の設定上、登場人物に対し批判的、否定的な扱いをする場合があります。
●作中のあらゆる事項はフィクションであり、現実に即さないものが多く含まれます。
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