スポンサーサイト

--.--.--.--:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

web拍手 by FC2

幸せの探し方②

2011.04.17.17:08

2話(R)恋愛音痴青年動揺



(ああ、まただ)

 次の移動先へ行くまでの空き時間、局のロビーで社を待っていた蓮は背後で交わされる会話にため息を吐いた。

 繰り返される似たり寄ったりの会話に対し若干の気だるささえ覚え、座っていたソファーに沈む。

「美人だよなぁ、このポスターの子」

「あぁ、『BOX〝R"』のナツだろ? まさに女王さま的な色気!」

「この子まだ10代だろ? リアル高校生じゃん。それでこれって・・・成長したらどうなるんだろうな」

「たしかまだ新人だよな、売り出し中なら声掛けたらお付き合いとかできるんじゃね?」

「はは、新人の子はそういう夢を抱けるのもいいところだよなぁ」

「いやいや! 夢じゃないって、現役女子高生とお付き合い!!」

 背後で続いていく会話は、『ナツ』演じる『彼女』の話題から遠ざかることなく、遂にはお付き合いするための作戦会議まで始ってしまった。

 聞きたくない。が、聞き耳を立てずにはいられない。

 ため息の原因はその二律背反ゆえか、あるいは会話そのものか。彼、敦賀蓮にとっては恐らく両方なのであろう。

(こんな会話、最近ますます増えたんじゃないか?)

 『彼女』や『ナツ』を純粋に、時には憧れすら込めて評価する同業者や彼女の同年代女性たち。蓮にとってそれらは耳にするたび我がことのように嬉しくなるものだ。

 しかしその一方には『ナツ』を通して『彼女』を男の目線から見る者が増え、それに伴い先ほどのような(そして今も続いている)会話が繰り広げられるようになった。

 このことは蓮にとっては非常に不愉快、かつ頭の痛い問題だった。

 『彼女』・・・最近話題の新人タレント『京子』である『最上キョーコ』その人こそ、彼の思い人なのだから。


 キョーコは蓮から見てあまりにも危なっかしい存在だった。これだけ世間で評価されているにも関わらず全く自身の魅力を理解せず、男たちの下心や欲望に気づこうともしなければ警戒もしない。

 10日前の時だってそうだ。

 蓮はキョーコに最後に会った日を思い出すことで、背後の会話を頭から追い出した。



 § § §



 今彼女は『Dark moon』や『BOX〝R"』を皮切りに、その演技力と際立った容姿を世間に示し、注目を集めている。

 名前が売れ出すとともに過去の仕事も再評価されだした。

 いじめ役と、キュララのCMでの純朴な印象とのギャップ。そして不破のPVにおける、あまりに美しく儚い心締めつける演技に、一時的な注目だけでなく、業界内での彼女の評価はますます高まっている。

 もともとの彼女の素行の良さとその演技の才能(そして根性)は、ブレイク前から若手監督たちのお気に入りでもあるから、この事態は何も驚くべきことではなかった。

 しかし、ただでさえスタッフから『人』として好かれていた彼女は、その容姿が素の状態でも磨かれだすとあっという間に周囲から『女』として見られるようになった。

 もともと忙しかった自分と、最近忙しくなりだした彼女。

 すれ違いの生活に彼は当初酷くやきもきすることになった。

 しかし、二人の交流は切れることなく続いていくこととなる。蓮自身のまめな連絡と、彼のマネージャーである社の涙ぐましい調整によって。

 蓮はキョーコにこのような日が訪れることを予見していた。

 とは言え、このような急激な変化の波だとは考えていなかったのである。

 まだ大丈夫、まだ彼女の魅力は自分しか知らない、と。


 想い人が評価される度、良かったね、と一緒になって喜んだ時はいつの間にか過ぎ去った。

 彼女がひとつ評価される度、彼女の魅力に気づく者がまた増える。それをもう蓮は純粋に喜べなくなっていた。


 ・・・・・が、これは更にそんな時期も過ぎた頃の話だ。


 すれ違って当然の日々の中で、想い人の姿を一目でも目にすることができる。運が良ければ直接言葉を交わすことが出来る。
 望めばそう難しくなかったその行為が容易ではなくなった現状を、蓮は当初、歯がゆく思ったりもした。

 しかし、人とは慣れる生き物で、今ではそんなささやかな可能性を求めて局の廊下で、わざわざ彼女の居るスタジオ近くを通ってみるなどの行為が最早ルーティンワークと化している。

 待ち伏せしている訳ではない。『偶然出会う』可能性を高めているだけだ。だからこれはストーカー行為ではない。と言うのが彼の言い分である。

 しかし、これは野生の勘なのか、はたまた恋する男の琴線に触れるものでもあるのか、彼とキョーコの遭遇率は思いのほか高いものだった。(実際彼は何かに呼ばれるように人通りの少ない場所に行く。そしてキョーコを発見する。)

 そう、だからこそ(場所柄上)本来まず目撃する筈もない場面に遭遇したとしても彼は驚きはしなかった。

 それは、既に彼の生活の一部となっているストーカー行為の途中・・・否、スタジオから自動販売機へと向かうまでの道中、『偶然』彼自身も間々体験する『そういう場面』に出くわした。

 笑えることに(彼にとっては当然おもしろくもなんともないが)、この良いのか悪いのか分からないタイミングでの遭遇は度々起こる。

 それは食事の誘いであったり、連絡先を尋ねるものであったり、あるいは告白の現場であったのだが。

 そのどれをも、キョーコは畏まった態度、または理解できないというような怪訝な顔で躱すのだ。

 相手の下心という意図も分からずに。


 しかし、その日の相手はかなり手ごわいようで、キョーコも(本人にそういう意図がある訳ではないのだろうが)持ち前の天然で相手を粉砕することが出来ず、話の噛み合わなさに困惑しているのが、遠目からでも蓮には見て取れた。

 蓮とて自身の恋心のために事態を複雑にしてキョーコに迷惑をかけたい訳ではない。
 常は彼女がさっさと相手を玉砕させた所でタイミングよくその場に現れるようにしている蓮だ。

 が、その日はキョーコと男の会話に割って入って行った。

 そもそも今まで彼が言い寄られるキョーコを目にしてもその邪魔をしなかったのは、彼女が意図せずとはいえ相手にその気が全くないことを問題なく伝えられていた、と言うのが前提条件に有る。

 しかし、世の中には聞き分けの悪い男も多くいる訳で、そう言う手合いの相手は自覚のない彼女には些か荷の重いことだろう。


 人通りの少ない局の倉庫近に近い廊下。そこに蓮の足音が響いた。

 キョーコと男、二人だけだった筈の空間にひびを入れた音源に、少女は驚きを、男は不快と警戒をもって振り返った。

 近づく俳優のその所作は常と変らず優雅で、この場に現れることがごく当たり前のこと、当然のこと、自然なこと。とすら思わせる立ち居振る舞いであった。

 蓮は突然現れた第三者に意識が逸れた二人の間にごく自然に入り込んだ。

「やぁ、探したよ“最上さん”」

「つ、敦賀さん」

 蓮は男にも分かりやすく意味深な色を込めてキョーコの名を呼んだ。

 そうすることで“敢えて『本名』を『名字』で呼んでいる”と伝える。

 そこには“本来は『本名』を『名前』で呼ぶ仲である”ことを匂わせるだけの艶めかしさがあった。

「ごめんね。彼女には俺が先約を入れているんだ」

 そう言ってキョーコの肩を抱く様はどう見ても『慣れたもの』である。

 それがキョーコに対してなのか、女性に対してなのか、錯覚させることなど場の空気を操る術に長ける蓮にとってはそう難しいことではない。

 後は男が反応するよりも僅かに早くキョーコの視線を絡め取り、自身を見上げてくるキョーコに意図を込めて視線を送り返すだけだ。

 “合わせて”と言うよりも“信じて”だとか“大丈夫”という想いを込めて。

 蓮には確信があった。キョーコとのアドリブの相性は抜群だから、例え彼女が『設定』を分からなくても途中降板されるようなセリフは言わないと。
 そして、きっとキョーコは蓮を信じてくれる、と。

 そんなアイコンタクトによる会話も束の間、キョーコに随分と執心らしい男も黙ってはいなかった。

「京子ちゃんさっきまでそんなこと言わなかったじゃないか。敦賀君、割り込みは良くないよ?」

「割り込み?」

 蓮は『それは君の方だろう?』と言外に込めクスリと失笑をこぼした。

 男は以前蓮と仕事で顔を合わせたことがあったがそれゆえに、本番中に限らず常に温厚そのものだった敦賀蓮と、今目の前に対峙する青年とのギャップに混乱した。

 その相手の混乱に乗じるように、蓮はキョーコの肩を更に引き寄せ相手に聞かせるための言葉を想い人の耳元に囁く。

「言ってもよかったのに。俺は君とならスキャンダルになっても構わないよ?」

 この言葉には流石の男もぎょっとした。

 が、それはキョーコも同様で、恐れおののき、慌て、必死になって両の手を振った。

「なななん、なんて恐ろしいことを!!! 敦賀大先輩の経歴に傷でもつけようものならワ、私、死んでお詫び申し上げなければ!」

 キョーコのその言葉には色々と言いたい事があった蓮だが、そこはグッと飲み込み、かわりにクスクスと笑った。

「冗談だよ。彼はマスコミにリークするような男じゃないから」

 男へ向け、さらりと釘をさしながら続ける。

「それに傷だなんてとんでもない! 君と噂になれるなんて光栄なことだよ? ああ、でもそうか。売り出し中の君がそんなことになったら迷惑かけちゃうね?」

 哀しみの中にほんの少しの情けなさを滲ませることで蓮は、弱った相手を放っておけないキョーコの心を更に揺さぶりにかける。

「いいいい、いえいえいえいえ! 迷惑だなんて滅相もない!! 私などのことより敦賀様の輝かしい経歴の方がずっと大事なだけなんですっ!! 光栄なのは私の方でございますぅ!!」

 戯れ合い(キョーコは至って真剣であろうが)ながらも互いの身を気遣う蓮とキョーコ。

 それがこの場のたった一人による『演出』だとは知らぬまま、ぽかんと見ていた男へ、今思い出したとばかりに蓮は告げた。

「あ、ごめんね? そういうことだから彼女は貸し出せないんだ。」

 男が“どういうことだ”との突っ込みを入れる間もなく、キョーコは蓮の手によってその場をさっさと連れ出されてしまった。

 二人の関係がどう言うものかなど断定せずに。
 それでも残された男が『彼女のプライベートは全て敦賀蓮で埋まっている』のだと想像するには十分なものを残して。




 その場を後にした蓮とキョーコはそのまま帰路へとついていた。

 これは蓮だけが(社からの情報により)知っていたことだが、この日はお互いこれで仕事は上がりであった。

 それも今はまだ7時を少し過ぎた所である。

 蓮の中の計画ではもともとキョーコを彼女の家(『京子』の顔が売れ出したために、キョーコはだるまやを出て一人暮らしを始めていた)まで送ることを口実に車に乗せ、あわよくば車中の会話で一緒に食事をする流れに持っていくつもりでいた。

 が、当初は一緒に食事を取りたい、少しでも長く一緒にいたい。との思いからその勝手な予定を立てていた蓮であったが、現在は別の目的からキョーコを車に乗せていた。

 蓮の心中は少々荒れていた。それは無防備な少女に対してであり、現状の深刻さへの理解が全く及んでいなかった自身に対してでもある。

 そんな蓮の気配をキョーコも察しているのだろう。彼女はさっさと家に帰りたいという思いに駆られていた。

 しかし、沈黙を破り発した蓮の言葉はそんなキョーコの願いなどあっという間になかったものとした。

「最上さん、今日は珍しく早い上がりだし、久しぶりに君の手料理が食べたいな。流石に栄養補助食品ばかりじゃまた風邪をひいてしまうよね?」

「つ、敦賀さん!! あなたはまたそんな食生活をっ!!」

 首をかしげキョーコを見やる蓮へ、前を向いて下さいと叫ぶキョーコには先ほどまでの気まずさなど(色々な意味で)もはや頭になかった。

そして、先輩俳優の身を心から案じる彼女に、頷く以外の選択肢はなかったのである。


 温厚、或いは紳士と呼ばれる者にあるまじき強引な行いをした蓮であるが、珍しいことに本人にもその自覚があった。

 しかし綺麗になったキョーコは日を追うごとに更に磨きがかかり、最早天然や恋愛回路の壊死だけでは男を振りきれないところまで来ているのだと、彼は現実を目の前にしてようやく気付いたのだ。

 気がつくのには遅れてしまったが、気がついたからには放ってはおけない。それがたとえキョーコの優しさに付け込む行いであったとしても、今日は家に連れ帰ってじっくり言って聞かせねばなるまい。

 蓮は当初の作戦通り――――情けないことこの上ないが――――自分の食事を引き合いに、今夜の彼女の時間と体を手に入れた。


 キョーコに再三再四の注意を受けている食生活が全く改善されていないことがばれたなら、其れは其れは厳しい指導を彼女から受けることになるのを蓮は理解している。

 その一方でマンションへ向かう車中、キョーコからのお説教を受けるうちに、蓮の健康を心配してくれるのが嬉しくて無防備な彼女への怒りは収まった彼だったが、この食事の趣旨は変わらない。

(彼女が俺の体を心配するように、俺だって彼女の身が心配なんだ。)

 食事が終わったなら、次は蓮からキョーコへのお説教タイムである。






戻る 目次 進む


2011/4/17 投稿
2011/4/19 誤字・誤表記 訂正
2012/1/8  リメイク

関連記事
web拍手 by FC2

comment

Secret

※サイト案内※
●当サイトにはスキビの考察および二次創作文が展示されています。それに伴い、展示物には性描写・暴力表現を含まれるものがあります。
●取り扱いカップリングは蓮×キョーコ、傾向は「両片想い」「ハッピーエンド」です。
●また、管理人は考察上、あるいは二次創作文中の設定上、登場人物に対し批判的、否定的な扱いをする場合があります。
●作中のあらゆる事項はフィクションであり、現実に即さないものが多く含まれます。
※性描写・暴力表現を含む作品は年齢制限を設けていますので、高校生含む18歳未満の方は閲覧しないでください。
最新記事
カテゴリ
絵 (1)
最新コメント
検索フォーム
カウンター
管理人
Author:常葉(トキワ)

どうぞごゆるりとお楽しみ下さいませ。
度々細かな変更はありますが、温かく見守って頂けると幸いです。

バナーとか作ってみたり。
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。