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再構築りれいしょん⑦-後

2011.05.06.06:00



ふぁうんでぃしょん(後)


(Side:キョーコ)

いくら呼んでも、いつものように抱きしめに来てくれない蓮に、キョーコはつい先刻の出来事を思い出した。

(そう、だ。敦賀さんなのに、怖くて、私)

ふるり、と体が揺れる。蓮の抱擁を自ら拒んだことと同時に、そのあと蓮に押し倒されたのだということも、体の感覚は覚えていた。

なぜ、自分は蓮を拒んだのだろう。あんなにも安心し、安らげる場所などないのに。

なぜ、蓮は自分を押し倒したのだろう。それは、自分たちの関係の中には含まれない事なのに。

そう思うのに、心は今もこんなにも彼の傍を求めている。そう思うから、キョーコの体は床に張り付けられたように動くことができない。

冷たかった背にする扉はいつの間にか温んでいた。

キョーコは、蓮の事が恐ろしかった。

(違う、違うの。そんなはずないもの)

キョーコは必死で頭を振る。

まるで、キョーコの抵抗を後押ししてくれるように、キョーコの中にひらめくものがあった。

(そう、そうだわ)

なぜ、自分は逃げだせたのだろうか。

自分は蓮に押し倒され、押さえつけられていた筈なのに、なぜ、その拘束から抜け出せたのか。

恐れる気持ちを押し殺し、キョーコは必死に混乱のさなかの記憶を呼び戻した。

そうせねば、今まで築き上げた蓮との関係がどこか遠くへと放り出されてしまうような、そんな気がした。

必死で暴れる自分に、圧し掛かる体重。それが、突然なくなって――――

(敦賀さんは、・・・退けてくれたんだ!!)

そのことに思い当ったとたんキョーコは、自分はいったい何をしているのかと思った。

自分が蓮を怖がるなんて、そんな筈がなかったのだ。

キョーコは誰よりも知っているのだから。蓮が決してキョーコを傷つけたりしない事を。誰よりも大切に守られている事を。

(私が怯えたのは、敦賀さんに対してじゃない。不破さんに―――――)

そこまで考えたとき、キョーコの体はがくがくと震えだした。

蓮のもとへ戻れば、今度こそ安心できると思うのに、先ほどの蓮とのやり取りが尾を引いた。蓮は、決してキョーコを傷つけないだろう。しかし、蓮がキョーコを組み伏せた時、ずっと沈黙していた何かが、とうとう産声を上げてしまったのだ。

(考えなくちゃ)

このままでは蓮のもとには行けない。

蓮と距離を置きたくて、置けるような状況でもなくて、今だってそうなのだけれど、今ここで、思考を置き去りにしてはいけないと思った。存在を主張する産声に耳を傾け、向き合わなければいけないと思った。

それは、ずっと触れないでいたものだから。


蓮とキョーコ、二人で時間をかけてゆっくりと積み重ねてきた信頼とか信用とか、あるいは絆だとか、記憶を失い、真っ白になった自分の歴史のキャンバスには、いつも蓮の姿があった。時とともに、小さな積み重ねが小さな変化を生んだけれど、蓮はいつでもキョーコを守り、キョーコはいつでも蓮を慕った。

それは決して変わらなかったことであったはずなのに、今その根幹が揺るがされようとしている。

あの日ベッドの中でキョーコが距離を取った時に、そして蓮がそれに対しなにも尋ねなかった時に、2人の新しい関係は既に始まってしまったのだ。あるいは、それよりもっと以前から種は蒔かれていたのか。何にしろあの日、互いにそれに気づいてしまったことが全てだった。

そうして、気づいてしまったそれはタブーだった。友人の延長にある親友、親友の延長にある兄妹のような仲、しかし、新たに生まれた関係性は、それらの先に有るものではなかった。そしてそれらと両立できるものでもなかった。

冷静に見つめなおす時間もない中で感じたその感情は、受け入れた瞬間に燃え盛って、今までの関係を焼き尽くしてしまうような、そんなものに見えていた。だから、キョーコは生まれてしまった感情には触れず、『今までの関係』を必死で抱きしめた。

(でも、違ったんだ。さっきの敦賀さんは『男の人』だったけど、『敦賀さん』だった。)

どんな時の『彼』であっても、自分の慕った本質が変わらない事に、自分は彼の根本と言うものを知りえるほどに、心と心を重ね合わせてきたのだと。湧き上がるものは歓喜なのかもしれない。


ずっと、変化を恐れてきたのは、今まで積み重ねてきたものを失うのが怖かったから。二人の関係が、延長線上にないものへと変わってしまえば、今までの時間が消えてなくなってしまうような、そんな気がしていた。

けれど違ったのだ。変化は積み重ねの先に有るもので、あるいは積み重ねること自体が変化で。キョーコが蓮を異性として意識してもキョーコがキョーコであることに変わりがないように、関係の変化は決して当人の変化ではないのだと。

そして、意識した『異性』としての蓮も、やはり蓮なのだと、彼自身が行動で示してくれた。


(私が怯えたのは彼にじゃない、記憶の残像よ)

そう繰り返し思うと、もう我慢できはしなかった。

思考のさなかも押しつぶされそうな不安に、震えが止まっていないことをキョーコは自覚していた。これを止められるのは、世界中で一人しかいはしない。もう一度、あの腕の中に入れて欲しいとキョーコは切に願う。彼は許してくれると、積み重ねた記憶が後押ししていた。

蓮は、決してキョーコの嫌がることをしない。例え、この先に変化した二人の関係が待っていても、積み上げた信頼は失われたりしない。

(今の関係が壊れても、新しく始まる関係は、その壊れたものの部品でできているのだもの)

キョーコはゆっくりと立ち上がった。

今度は、友情も、恋心も抱きしめて。

















(Side:蓮)

俺が扉を叩こうとしたその瞬間、目の前の扉が開き、キョーコと視線がかち合った。

「「え」」

さっきの出来事が出来事なだけに、2人ともしばし固まる。

フリーズは同時に溶けたけれど、彼女の口が開くのを見て、俺は視線で先を促した。

彼女がしばらく、口をもごもごさせ、俯く。

バッと顔を上げたキョーコが言った。

「だ、抱きしめて貰ってもいいですか!?」

そう言って、返事も待たずに俺の胸に飛び込んでくる。

俺の胴に腕を回すキョーコに、嫌でも気づかされる。彼女は震えていた。

彼女は、本当はまだ、怖いんじゃないか?俺が。

胸が締め付けられ、彼女の背を前に俺の腕は宙をさまよっていた。

「抱きしめても、いいの?」

随分と情けない声が出た。せめてもの救いは、もの凄く情けない顔をしているであろう俺の顔を、胸に顔を埋めている彼女には見られないことだろうか。

キョーコがその状態のまま言った。俺の問う意味に気がついたのだろう。

「敦賀さんが、抱きしめてくれないと、震え、止まりません」

そのまま、さっきの勢いをどこかにやってしまったように、ぽつぽつと彼女は話した。

俺は彼女を抱きあげ、キョーコの部屋にお邪魔する。抱きつく彼女も、抱きしめる自分もそのまま、ソファーに腰を下ろした。

「さっきは、ごめんなさい。」

彼女は俺の胸に顔を押し付けていて、その表情はうかがえない。けれど、その声音が雄弁に彼女の感情を俺に伝えた。

「いや、俺の方こそ、ごめん。配慮が足りなかった、それに―――――」

酷いことをした。あんな目にあった女性にすることではないと、そう言おうとした俺を彼女が強く遮った。

「違います!!混乱して、敦賀さんが怖かったんじゃなくて、敦賀さんは大好きで、敦賀さんが私に酷い事するなんて今でも思ってなくて!!だから、その、」

一瞬あげた顔はすぐに伏せられたけれど、彼女の耳が、僅かに見える額が、赤く染まっているのがわかった。

そうして、言葉に詰まらせた後、言ったのは

「だ、抱きしめていてください!!」

俺、今、破顔しているんだろうな。鏡を見なくたってわかる。

「ああ、俺から頼みたいくらいだ。」

抱き締めさせてね、と心のままに彼女へとささやいた。


俺たちの間に、今までずっと警戒し続けていた空気が漂っていた。それは言ってしまえば男女の空気と言う奴で。俺も彼女も、それを無いものとしてずっとずっと過ごしてきたのに。

今その空気が存在していると、暗に肯定し合っているにもかかわらず、ここ最近ずっと彼女と俺の間に横たわっていた緊張が解けていくのを感じた。

だから、聞いてみようと思った。

変化は、一方的なものではないのだと、教えてほしかった。

「キョーコ」

「なんですか?」

俺の呼びかけも、キョーコの返事も、いつもと何か違っているから。

「俺たちって、『友達』?」

意地悪な質問だろうか。でも、勇気を出すひと押しをくれないだろうか、とこの期に及んで彼女に甘えた。

「敦賀さんは、どう思われます?」

意地悪を返されてしまった。仕方ない、勇気を出すと決めたんだ。いつまでも彼女に甘えている訳にはいかない。

「今は、『家族みたいな友達』だと思うよ。でも、将来は本当の家族になれるといいって思ってる。」

少し考えてから付け足した。勘違いされては困るから。

「もちろん、おそろいの指輪を付けた家族にね?」

彼女の表情が、この時ばかりは想像できなかった。

「私もです。」

確信が欲しい。顔を上げてはくれないだろうか。

「意味、わかってる?」

「わかってます」

「俺と、新しい関係を作ってほしいって、言ってるんだよ?」

「私、気づいたんです」

「何に?」

「今までと、全然違う関係でも、今までの関係が壊れてなくなるんだとしても、新しく作っていく関係の材料は、以前の関係から出来ているんだって・・・」

「そっか、そうだね。」

彼女の考えは、俺が関係性を不可逆の化学変化に例えたのと似ていて、よく理解できた。

俺の相槌に、キョーコが漸く顔を上げた。

「それに、これでもわかってないように、見えますか?」

彼女の顔は、あまりにも赤く、鮮やかに染まっていた。

だから

「キスしていい?」

返事を聞く前に、顔を寄せた。


――――――そして


ベチッ


「その手は何かな?」

自分と彼女の唇を隔てる小さな手のひら。

俺の顔が多少ひきつっているとしたら、絶対に彼女のせいだ。

「あの、再構築はゆっくりお願いしますぅ」

俺の凄みに半泣きになる彼女。

勝てる気なんてする筈がない。





≪了≫




という訳で、最後までお読みいただきありがとうございました。
結局我が家の敦賀氏はくっついてもキス一つ満足にできない運命にあるようです。
それも連載開始時からこうなることが決まっていたという鬼畜ぶり。

あて馬と言うか、敵役と言うべきか、不破君が『人の尊厳を踏みにじる』というキャラ設定なので(当サイトでは割とどの話においても)、逆に敦賀氏は『人の尊厳を守る』人として書くようにしています。
人の尊厳とはその人の意志である、と考えているので、敦賀さんキョーコに無理強いできません。ドンマイ。

欧米などの個人主義が徹底している国は、個々人のパーソナリティというものをとても大切にするそうです。生粋の日本人の私にそれがどこまで理解できているかは判りませんが、そんなことも意識しつつ書きました。

誰か、その後の不破氏の転落人生でも書いてくれないかなぁ。
などと考えつつ。

どっとはらい。
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Author:常葉(トキワ)

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