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鏡の国のぼくら①

2011.05.12.06:00

(改)


1話:さくらを愛することはできますか?


君がいて、俺がある

あの日、世界から放り出されてしまった君に

伝えたい事が、ある





 その日、キョーコの元に一つの映画のオファーが届いた。

「鏡の国、ですか!?」

 キョーコは目をキラキラと輝かせた。何ともメルヘンチックな響きは彼女を興奮させるのに十分な役割を果たしたようだ。

 キョーコはタレント部主任である椹に続きを促した。
 常日頃のように妄想の世界へと飛び立たなかったのは快挙といえる。が、それは何も――この方面における――彼女の成長を示すものではなかった。単に不吉な予感がしたから警戒心が先に立った。それだけだ。

 それも、キョーコが最も厭う類のもののように思えてならなかったのだから、彼女の嗅覚は非常に冴えていたといえる。

「ああ! それも主演の一部だ!! 大役だぞ!!」

 興奮気味の椹が発した言葉に、別の方向からもキョーコの不信は募った。

 主演の言葉は恐れ多いほどに有りがたいことであるが、今の椹の言った主演の“一部”とはどういうことか。

 ここで安易に喜んでは未緒を受けた時の二の舞となりかねない。

 そんな葛藤からか、あるいは椹の喋る勢いからか、キョーコは無礼と知りつつ黙りを決めた。それに気付かない椹はホクホク顔だ。

「新開監督直々の指名でな! 最上君もとうとう映画デビューか・・・まさか君がこんなに早く出世するとはなぁ」

 感無量の面持ちの椹は漸くその勢いを落ちつけキョーコに笑顔で問いかけた。

「もちろん受けるだろう?」
「ええ、もちろん」

 キョーコは力強く答えた。

 干からびた大根にならないため、師の教えを胸に頷くキョーコであったが、嫌な予感は最後まで消え去ってはくれなかった。

 だからこそ下手な質問をして怖気づく前に、キョーコは自ら退路を断ったのである。


 § § §


 だるま屋の自室で、台本を開くに開けずキョーコは暫く『鏡の国』と印字された台本の表紙と睨めっこしていた。

 キョーコにはこのぺらぺらの表紙が重厚な扉に見えた。そしてその向こう側からメロディーが聞こえる気がするのだ。それは破滅と絶望の序曲。

 世界が壊れる、その前触れの音。

「すぅ~~はぁ~~~・・・よしっ!」

 それでもキョーコはページを、扉を開いた。


 キャスト(仮)

 主演
 美崎サクラ役(青年期):敦賀蓮(サクラ)、京子(桜)
 美崎サクラ役(少年期):京子(サクラ、桜)
 美崎サクラ役(幼年期):・・・・・・

 助演
 ・・・・・・
 ・・・・・・




 かつて恋い慕ったショータローを憎むことで、粉々に砕けた世界。
 世界は、芸能界とそこで出会った人々との関わりの中で少しずつ再生を始めた。その世界から逃げ出すことは世界が壊れることに等しい。

 だから、止まるわけにはいかなかった。逃げても、進んでも破滅しかないのなら、キョーコは最後まで戦いたかった。

 配役の“敦賀蓮”の文字に気をとられながらも、キョーコはページをゆっくりと進めていった。


 § § §


「一睡も、できなかったわ・・・」

 まぶしい朝日の中、キョーコは赤い目のまま呟いた。
 有難いことに土曜日の今日、キョーコは仕事も学校も完全なオフだ。

 胸に台本を抱えて呻くキョーコは、そのページを開く以前の嫌な予感など忘れ去っていた。

「む、無理よ、何でこんなムチャ振りするのよーー! 敦賀さんと私が・・・・・・同一人物だなんて~~~~!!」

 早朝のだるま屋に、キョーコの泣き言が木霊した。


 『鏡の国』は題名から連想できるようなメルヘンな物語ではなかった。

 人の苦悩と自己愛をテーマにした重たい内容だった。

 嫌な予感を感じつつも、メルヘンな響きの題名にファンタジー物を僅かばかり期待していたキョーコの心を粉々に打ち砕く程度には。

 その上この台本ときたら悉くキョーコの地雷を踏みまくっていた。

 まず、自分と蓮は最終的に愛し合わなければいけない。

 実はこれは、まあいいのだ。愛し合うと言ってもそれは、キョーコの恐れるような『惚れたはれた』の愛ではないから。・・・それでも十分いやだったが。

 本当に問題なのはもう一つの方。この物語の主人公“美崎サクラ”と母親の関係だった。女の子供を望んでいた母親に、不良品のレッテルを貼られた主人公、サクラ。

 『桜』と名付けられる筈だった彼は、男として生まれた事で
 “私の大切な子につける名前である『桜』の字は与えられない”
 ――と『サクラ』と名付けられた。

「悪いのは母親じゃない。男に生まれついたのはそういう風にしか産めなかった母親が悪いんじゃない・・・」

 キョーコにはすでにこの時点できつかった。自分の名前の由来は知らないけれど、自分は何故カタカナで『キョーコ』なのだろう、と考えたことはある。それでもこの名前は母から贈られた唯一のものだった。コーンから魔法の石をもらうまで、キョーコの持つたった一つの大切な宝物だった

 それが、カタカナで書く『サクラ』は『鏡の国』の母親にとっては不良品のレッテルとして貼ったものなのだ。

 サクラは必死で理想の子供になろうとするが、時と共に彼はどうやっても誤魔化せないほどに『男性』になってしまう。

 男の自分をどうしても愛せないサクラには、『桜』という妹がいた。それはサクラの中にいる架空の妹で、彼らは互いに、サクラは母親の理想である桜を、桜は母親の理想通りではないサクラを嫌いあっている。

 そして自分はこの『母親の理想の子供』、『桜』を演じなければいけないのだ。

「『サクラ』の演技なら自信を持てるのに」

 認められたくて、褒めて欲しくて、捨てられたくなくて、必要とされているのだと、ココに存在してもいいのだと、そう言って欲しくて。歯牙にもかけられない努力をそれでも惜しむことはできなかった。

 それを演じることは途方もなく苦痛であるだろうけれど、それでも『理想の子供』という未知の役を演じるよりは難しくない筈だとキョーコは思った。



 太陽が真上に来る頃まで役作りに悩んだキョーコは、結局いつもと同じ結論に至った。

「そうね。そうよ! 敦賀さんに相談させていただこう!」

 いつものキョーコならば勢い余ってだとか、もっと悩んでからだとか、その上で相談するのだが、今回蓮が演じるサクラとキョーコが演じる桜は切っても切り離せない仲である。

 何と言っても同一人物なのだから。それも、キョーコは子供時代にはサクラと桜の両方を演じる訳だから、時系列上の過去と未来の役関係でもある。

 表出する感情は全く違っていてもその根は同一なのであろう、と台本から読みとった。それがどんな姿をしているのかは置いておいて。

 だから、どうしても蓮とキョーコで綿密な話をしておきたかった。役の解釈や人物像にズレがあっては、いくらキョーコが一人で役作りに励んでも、撮影でOKが出る訳もない。何より連の足を引っ張ってしまう。

 この役を演じる上で問題は色々あるが、何より、蓮と同一人物を演じると言うのがもっとも難しいように思えた。

 同一人物を複数で演じるとき、本来はどうするべきなのかもわからないし、聞くだけ聞いてみようと、キョーコにしては随分早くに決断した。

 が、ふとキャスト部分を見直して、躊躇う。(仮)がついていた。もしかしたら蓮はこの仕事を断るかもしれない。新開監督の映画で主演を断るとはあまり考えられないが、常に殺人的なスケジュールをこなす蓮が受けるだろうか。

 撮影開始はまだ当分先であるし、蓮の方には前々からオファーが来ていた可能性も十分にあるけれど。

「どうしようかしら」

 ひとまず椹に確認してみよう。椹が知らなくても俳優部の主任なら把握しているから、どうせならばラブミー部の仕事もしよう、と決めてキョーコは事務所に向かうことにした。

 手早く外出準備を整え、外に出ようとした時、キョーコの携帯が鳴った。

「最上君、今大丈夫か?」

 非通知の電話の主は椹だった。蓮だったら話の流れでオファーを受けたか聞こうと思ったのだが、今の内に椹に確認してもいいかもしれない。

 何にしても相手の用件が先である。

「はい、大丈夫です。何かありましたか?」

「休みの所悪いんだが、14時に事務所の第三会議室に来られるか?例の映画の件で、新開監督が役作りについて話しておきたい事があるそうなんだ」

「分かりました。今からそちらに向かうところだったので、行けます」

 そこで、キョーコは蓮の出演のことを確認しようとしたのだが、椹も忙しいらしく、電話は慌ただしく切れてしまった。

 なんにしろ、つい先ほどまで悩んだ役作りについて監督直々に話があると言うなら有難い。何かヒントが見つかるかもしれないと、蓮の件はひとまず置いておくことにした。


 しかし、キョーコの疑問は向かった先の会議室で解消されることとなる。

 時間の10分前、そこには蓮がいた。


 § § §


「失礼します」

 事務所の第三会議室、扉を開けた先には先輩俳優である敦賀蓮とマネージャーの社がいた。

 思いがけず遭遇した蓮に、キョーコは蓮が映画のオファーを受けたのだとすぐに察した。

「お久しぶりです。敦賀さん、社さん」

「おはよう、最上さん」

「キョーコちゃんおはよ~、やっぱりこのオファー受けたんだね!」

 社が、今しがたキョーコが考えていたことと同じことを口にした。

「はい。初の映画で主演の一役を頂けるなんて、有難いですけど、恐縮です。敦賀さん、今回も共演よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしく、最上さん。また君と共演できて嬉しいよ」

 キョーコが蓮の隣に座り、3人で雑談しながら監督が来るのを待つ。

 14時ちょうど、新開監督がやってきた。






 役作りをするに当たって、念頭において欲しい事がある。

 新開は忙しい蓮に配慮して挨拶もそこそこ、率直に話しだした。

「この映画は、俺が今まで監督してきたどの映画よりも深く愛について掘り下げたものにしたい」

 開口一番のこの言葉にキョーコはピキョリと固まりつつも、新開が作中に有るサクラの恋の話の事を言っているのだと思った。サクラは女性に恋をすることで自身の男性性を見つめ直す切っ掛けを得る。

「人は、自分自身へ向ける以上に他人を憎んだり愛したりすることはできない。だからこそ、二人の“さくら”の憎しみと愛を、どんな恋愛や親愛よりも濃密に演じて欲しい」

 キョーコは改めて蓮を愛する演技をしなければいけない事を新開から明確に言葉にされてドキリとした。それは自分の恐れる『ほれたはれた』のものではないのだと言い聞かせ、自身を落ちつける。

 するとまた別の不安が浮かんでくる。キョーコには新開の言葉が理解できなかった。

 新開は“人は自分自身以上に他人を憎んだり愛したりすることはできない”と言うけれど、キョーコはかつてショータローを自分自身以上に深く深く愛していたし、今はこれ以上ないほどに憎んでいる。この激しい憎しみを自分自身に向けることなど到底想像もできない。

 そもそも自分自身を省みずに、人のためだけに生きてきたキョーコには、自己愛とは何なのかすら良く分からなかった。

 困惑するキョーコをよそに、新開は言葉を続ける。

「忘れないで欲しいのは、サクラと桜が愛し合うのはあくまで自己愛だと言うことだ。互いはあくまで自分自身だと言うことを絶対に覚えておいて欲しい。撮影開始はまだ暫く先だから、忙しいだろうが蓮とキョーコちゃんで時間を見つけて打ち合わせしてくれ。サクラと桜は全く違う人格でありながら、その根本は同じ。それを場面の一瞬ごとに感じられる、そんな2人を期待しているよ」

 蓮とキョーコが同じ心の根っこをもつ役を演じるなんて、これがやはり一番の難関だとキョーコは思った。しかし、監督直々から打ち合わせするようにとの指示が貰えたので、蓮に相談もしやすくなったと、前向きに考えることにしたのだった。




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