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鏡の国のぼくら②

2011.05.13.06:00

(改)

2話:映して見せてよ、その姿を


君は鏡の国の迷子だった

どこにも帰るべき場所を持たず
それでも迷子になっていた

それだから迷子になっていた





 キョーコお手製の夕飯を食べ終え、片づけも済ませてコーヒーで一息入れる。

 そんな緩みきった空間が出来た所で、それは来た。

「で、最上さんは何を悩んでるのかな?」

 藪も突いていないのに蛇が出た。理不尽な話である。

「な、何も悩んでなんていませんよ?」

 キョーコは、未だに役の尻尾さえ掴んでいない事がバレたならば蓮に失望されると思った。もともとは相談しようとしていた訳だが、微妙に間が空いてしまったために、自分の無能が浮き彫りにされたように思う。

 二人の予定を合わせ早めに仕事を上がった本日、監督の話から3日目。キョーコはあれから更にさらに考えて、それでも『理想の子供』の演じ方が分からなかった。

「これから俺たちは同一人物を演じるんだよ?困った事があるなら相談してほしい。同じ時間を過ごすだけじゃダメなんだ。心を通わせて、重ね合わせていくには、沢山の言葉がいる」

 キョーコはハッとした。3日間のあいだ悩み込んでいるうちに『サクラ』の演技にばかり気を取られて『サクラ』と『桜』を同一人物として演じるにはどうすればよいのか、考えることを忘れていたのだ。

 流石に申し訳なく、せめてもと正直に白状する。

「そ、そうですよね。私『桜』を、あ、女の子の方の『桜』をどう演じればいいのか皆目見当もつかず、そのうえそれにばかり気を取られて、同一人物を複数でどう演じるのか、そこまで考えが及んでいませんでした。」

 些か自分が情けなさ過ぎて、キョーコはしょんぼりとしながら謝った。

「いや、寧ろその方が良かったかな」

「え?」

 予想外の言葉にキョーコは顔を上げた。

「最上さんは、サクラと桜を演じきるために、どんなことでもする覚悟はある?」

 蓮がキョーコの目をじっと見つめる。キョーコは負けじと見つめ返した。

「勿論です」

 ふっと、蓮の目が和らいだ。

「男の方のサクラ―――紛らわしいから、こっちは『サク』とでも呼ぼうか。サクにしろ桜にしろ、彼らの役作りをしてから同一人物らしくしていくよりも、同一人物を演じられるようになってからサクと桜に分化して言った方がいいと思うんだ。」

「なるほど、もともとサクから桜が生まれた訳ですし、その方が理にかなっていますね。でも、どうやって、同一人物を演じられるようにするんですか?」

 サクや桜の役作りをせずに、どうやって同一人物になると言うのだろう。

「うん、最上さん」

「はい?」

「まずは、俺とひとつになる所から始めてみようか」

 蓮がにっこり笑って言い放った。

「は?」





「お互いを、演じる、ですか?」

「正確には、相手の思考や反応を辿る、かな? 相手ならこの場面で何を考え、何を話し、どんな行動をとるのか。
 鏡に映しあうようにお互いを演じることで、自分が相手をどんな風に見ているか、見られているかを確認し合える。
 その上で2人のさくらを作り上げることで限りなく同一人物に近づけていく」

「おっしゃることは分かるのですが、正直・・・敦賀さんの頭の中なんて想像がつかないのですが」

「でも俺の反応の仕方は知っているだろう? 君自身が表面上でもソレを演じれば意外と内面が見えてくるかもしれないよ?
 心と行動は切り離せない。切り離した心と行動はあり得ないんだ。秘密にしたり、黙っていたり、騙したりするのも“行動”だからね。
 “表面しか理解していない”と言うと悪い意味にしかとれないけど、正しく表面を理解することが出来れば限りなく内面を理解出来るんじゃないかな」

 キョーコは頷いた。蓮がどんなときに怒るのかは分からなくても、どんなふうに怒るかは知っている。
 ショータローの話題に“なぜ”不機嫌になるのかはわからないが、“ショータローの話題に不機嫌になる”こと自体は経験則として知っている。

「因みに俺から見た最上さんはメルヘン癖のある根性の塊みたいな子だよ?」

「ちょ、何ですかそれー! 当たってますけど、当たってますけどね!? もうちょっと他に言いようというものが・・・」

 蓮がいたずらっ子のような表情を改めた。

「それに、とても努力家で、何にでも一生懸命で我慢強くて、素直で優しい、そんな子だよ」

 ぴきょ、とキョーコは固まった。そして猛然と反論する。

「敦賀さん!! あなたの目は私に対して異常を示しています!! 何らかの呪いをかけられている可能性がありますよ!! 私がそんな絵に描いたような素晴らしい人間な訳ないじゃないですか!! 努力も我慢強さも優しさも敦賀さんご自身のことですよ! お褒めにあずかり光栄ですがお世辞は結構です!!!」

「お世辞じゃないよ。君が君自身をどう思うか俺は強制できないけれど、俺が君のことをどんなふうに見ているのか、それを否定しないでほしい。俺にとって君は今言った通りの子だから」

 思いのほか真剣な先輩俳優の声音にキョーコは勢いが続かなくなった。

「つ、敦賀さん、でも」

 蓮がいじけた様にそっぽを向いてツンと言った。

「もちろんそれだけじゃないけどね? そうやって自分を卑下するところとか、尊敬していると言いながら俺の言葉を疑ってかかるところとか、そういうところも俺はちゃんと見てるよ」

「な! わ、私だって、敦賀さんのそういう微妙にねちっこい嫌味なところもしっかり見てるんですからね!!」

 初めてみる蓮の幼い拗ね方に、思わず普段は口にしない思考を吐き出してしまう。

 蓮がクスリと笑った。

「じゃあそう言った不満なところも含めてやっていこうか。そうしたら案外そんな部分も好きになれるかもしれないよ? それから、いきなり互いをトレースするのではそれこそただの『演技』で終わってしまうからね、ルールを作ろう」

「はい!」

 キョーコはいつの間にか取り出したメモ帳とペンを構えて蓮を見つめた。

「そんなに複雑なことじゃないよ。ルールはただ一つ。間違いでも、想像でもいいから相手の行動を真似るときはその心情を自分も持つこと。例えば・・・」

 蓮はニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた。

「最上さんは俺がなぜ『微妙にねちっこい嫌味な態度』をとるのか分かる?」

「! そ、それは敦賀さんが微妙にねちっこい嫌味な性格をしていらっしゃるからではないですか?」

 キョーコは戦々恐々としながらも返した。こうなれば意地だ。蓮の浮かべた意地の悪い笑み。そして例え話の“微妙にねちっこい嫌味な”チョイス。意地を張らないわけにはいかないだろう。

「ふーん。仮にそうだとして、最上さんは俺たちが出会ったばかりの頃もそう思っていた?」

「いえ、敦賀さんは生理的に受け付けないレベルで私のことを嫌っておられるのだろうと思っておりました」

 キョーコのあまりにも大まじめな調子の返答に、蓮が意地悪な笑みを弱々しい苦笑いに変えて言った。

「そうだね。俺も君のことを何も分かっていなかったから、最上さんの一面だけを見て決めつけて、散々意地悪した。・・・ごめんなさい」

「い、いえ! いいんです! あの頃の私、本当に最低な言動ばかりしていましたし! 仕方がありませんよ!」

 尊敬してやまない大先輩に頭を下げられ、キョーコはとにかく慌てた。

「それに私の方こそ一面どころか何も知らないのに嫌っていましたし、今は敦賀さんの仕事に対する姿勢や自分の非を認めたら素直に認めることの出来る大人なところとか、たくさん尊敬できるところ知ってます! 意地悪や嫌味も相手を傷つけるためじゃなくて、遠回しに伝えたいことがあるだけだって言うのも――――・・・あ」

 やられた。キョーコは思った。一体どこからが誘導だったのだろうか。本当にこの人の内面を理解することが出来るのか、キョーコはますます不安になった。
 けれど――

「つまり、こういうことなんですね」

 蓮の言った“相手の行動、そしてそのときの心情”それを自分なりに解釈し、理解し、自らもその心情を持つこと。それは役を生きることの基本だ。

 問題の解けた子供を褒めるように蓮はキョーコの頭をなでた。それはヒール弟妹の名残かもしれない。

「もしも解釈を間違えていたなら行動に必ず綻びが生まれる。もしも違和が生じないならそれは限りなく相手の心情を理解している、と言ってもいいんじゃないかな」

 連が行おうとしていることが役を生きる基本中の基本と同種のことだと理解してキョーコの力もよい意味で抜けた。

「確かに、思い込みに走ったりしなければこれ以上は無い方法かもしれませんね」

「うん。だから、相手を理解しようとするのと同じくらい、自分を伝えながら生活していこうね。さっきみたいに」

 クスクスと笑う蓮に、キョーコは今更ながら乗せられて言い返したことが恥ずかしくなり頬を染め、それを誤魔化す勢いで返事した。

「はい!!」

 よしよし、と言うように蓮が頷く。

「じゃあ、今日からココに一緒に住もうね」
「え、どうしてそのような話しに?」
「最上さんは役を掴むためにどんなことでもするって言ったよね?」
「当然です!」
「一緒に生活していこうって言ったら「はい」って返事したよね?」

 ニコニコしながら、威圧感を発する蓮に、『一緒に』生活なんて言い方していませんとは突っ込めない。

 だから、せめてもの抵抗にキョーコは言った。

「あの、何で一緒に生活する必要が?」
「俺と君が最終的にひとつになるためには、やっぱり一緒に過ごす時間も大事だから」

 いちいち微妙な言葉のチョイスに、呆れながらもキョーコは何とか撤回を試みた。
 しかし努力むなしく、同居生活を了承させられたキョーコ。
 準備がないことを理由に、同居は明日からと蓮をどうにか納得させたのは快挙といえるだろう。

 帰り際、車内で蓮にしっかりとマンションのスペアキーを渡されてしまったが。




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2011.05.13.08:09

良いプロット!
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●当サイトにはスキビの考察および二次創作文が展示されています。それに伴い、展示物には性描写・暴力表現を含まれるものがあります。
●取り扱いカップリングは蓮×キョーコ、傾向は「両片想い」「ハッピーエンド」です。
●また、管理人は考察上、あるいは二次創作文中の設定上、登場人物に対し批判的、否定的な扱いをする場合があります。
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