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鏡の国のぼくら③

2011.05.15.06:00

(改)


3話:天秤を傾けて

君の価値を俺は神にだって誓えるのに

君に俺の言葉を信じてもらうためには何が必要なのか






 今日から蓮と一緒に暮らし始めることになる。その日最後の収録を終えてテレビ局の廊下を歩いていたキョーコは小さく呟いた。

「全く、破廉恥だわ」

 言葉とは裏腹に緩んだ頬は隠し切れていなかったが。

 何の因果か蓮と暮らすのは初めてのことではない。
 蓮と二人で演じたヒール兄妹は苦労や心配が絶えなかった一方で、未知の発見が多くあったのも事実だ。
 その一つが雪花という役を通して得た喜びだ。その喜びは深層心理にまで深く刻み込まれ、未婚の男女が一つ屋根の下に暮らす恥じらいを押しのけてこれから始まる生活を待ち遠しくすら思わせた。

 兄弟として暮らすわけではない。けれどキョーコは心のどこかで“カインと雪花”の居心地の良さが“蓮とキョーコ”の居心地の良さに結びつけられていた。

 いやな予感。役作りへの不安。そしてこれからの暮らしに対する無意識の期待。
 まとまらない気持ちのまま、そわそわフワフワとキョーコは出口を目指していた。

 その彼女の意識を京子へと切り替えさせたのは男が声をかけてきたからだ。

「京子ちゃん、お疲れ様!」

 男はつい先ほどまで共演していた――別事務所所属の――タレントだった。

「お疲れ様です」

 いつも通りキョーコは丁寧に頭を下げる。相手の男性はキョーコを歩くように促しながら勢い込んで話し始めた。

「京子ちゃん最近モデルの仕事も始めたでしょ? 一昨日発売した雑誌見たよ! めっちゃ可愛かったよ!! 俺の好みど真ん中!! 特に最後の特集ページ、花の妖精をイメージしてたのかな? 今日、実際の京子ちゃんに会ってビックリしたよ、写真そのままなんだから!!」

 大好きな妖精をイメージして撮られた写真。メイクや衣装、そして背景の効果とカメラマンの腕により完成したそれ。メイクはしているものの、割と素のままのビジュアルだった今の自分を写真そのままだと言われ、流石のキョーコも照れてしまった。

「あ、ありがとうございます」

 照れて、思わず相手から視線を外した時、気がつけば出口から逸れて人気のない場所まで来ていたことに気づく。

「あ、すみません、私ったらお話に夢中になってしまって、道を間違えてしまいました」

 別れの挨拶を告げ引き返そうとした時、ぐっと腕を掴まれた。

「待って。ね、京子ちゃんて俺のこと好きだよね?」
「え?」

 振り向くと、男の顔が想像以上に近く、キョーコは一歩後退した。が、腕を引っ張られ引き寄せ、抱きしめられる。

「ちょ、やめて下さいっ」

 そう言うと拘束が緩んだので、キョーコは自由の利く方の手で、相手の体をつっぱねた。

「ああ、ごめんごめん。急にこういうの駄目なタイプだった? 純情そうだもんね。でも嬉しくて。随分前から京子ちゃんのこと気になってたから、君も俺に気があるみたいで嬉しかったんだ」

「な、何言ってるんですか? 気なんてありません!!」

 “気がある”の意味を正確に理解できたのは幸か不幸か。キョーコは何故相手がそんな事を言い出したのか見当もつかず強く否定する。
 今回共演することになって初めて会ったばかりの相手をどう好きになれと言うのだろうか。

 キョーコのきっぱりとした否定に、男も流石に鼻白む。

「はあ?じゃあどうしてあんな思わせぶりな態度とるワケ?」
「思わせぶりって・・・そんな態度とってません!!」

 相変わらず近いままの体をキョーコは必死に押しのけた。

「いやいや、可愛い顔であんな丁寧な挨拶されたら、気があると思うだろ?」
「普通の挨拶しかしていませんってば!!」

 押し問答を続けていた時、第三者の声が割って入った。

「何してんだよ! こいつは俺のもんだ!!」

そう言って背後に引き寄せられる。
 
「ショーたろ」

 むぐ

 本名を呼ぼうとして口を塞がれた。その間にも不破はキョーコを挟んで対峙した男にガンを飛ばす。

「思わせぶりなことすんなよ」

 男はキョーコを非難がましく睨み、舌打ちとともに去って行った。

「んむう~~~」

 塞がれたままの口、背後から拘束されたままの体に我慢も限界のキョーコが不破の足を思い切り踏んづけた。

「だぁ!! 何すんだよ!!?」
「それはこっちのセリフよ!! いつまで触ってんのよこの変質者!!」
「な! それが助けってやった人間に対する言葉かよ!?」

 いきり立ち、キョーコと不破がにらみ合う。

「助けて頂かなくても結構だったわよ! あの人はあんたよりよっぽど人間の言葉が通じてたわ!!」

 なぜあのような誤解が生まれたのかは分からないが、キョーコの言葉は確かに伝わっていた。わざわざショータローが首を突っ込んでこなくても解決していたと断言できる。

「人間の言葉?」

 ショータローがハンッと鼻で笑った。

「俺の言うことニコニコ笑って聞いて俺のために働くしか能のない『人形』のくせに。
言うに事欠いて“人間の言葉”とは。お前馬鹿か?」

「何ですってーーーーー!!!」

 キョーコは怨キョをショータローに投げつけ、足早にその場を去った。怨キョに拘束されている背後の男が、喚いている。

「何しやがんだ!! おい! これ解きやがれ!!」

 金縛りが解けないと知るや、数分前に去って行った男と同じように舌打ちする。

「キョーコ!! テメェ胸も色気もねーくせに男誘ってんじゃねーぞ!? 人形が人間に本気で愛される訳ねーだろうが!! お前は俺を追っかけてればいいんだよ!!」

 キョーコはもう振り向きもしなかった。返事も返さなかった。一言でも発すると、涙がこぼれそうだった。

 あんな男の言葉に二度と傷つきたくなどないのに『人形』。そう形容されたことがあまりに鋭く胸に突き刺さっていた。

 家政婦と呼ばれたあのとき、キョーコは怒った。憤怒は憎しみを呼び、キョーコを立ち上がらせた。でも、今は。

(空っぽの私は・・・人間ですらなかったんだ・・・・・・!!)

 人形・・・それは呼び名のなかった自分のあり方に決定的な定義を与えてしまった。


 § § §


「最上さん、荷物はこれだけ? 忘れ物はない?」

 そうキョーコに尋ねる蓮は、揺れる彼女の心を読み取ったように心配げだった。

 最近ますます芸能人として活躍するようになったキョーコは、これを機にだるま屋を出ることにした。

 だるまや夫婦には丁度、前々からいい場所を見つけ次第、だるま屋を出ようと思っている事は伝えていたし、荷物も簡単にだがまとめていたから引越しはごく簡単だった。

 本当は撮影がクランクアップして、生活が落ち着いたら蓮の元を出て本当に引っ越すのだけれど、夫婦には流石に付き合ってもいない男性の所でお世話になるとは言いづらく、迎えに来た蓮のことは引越しを手伝ってくれる、普段からお世話になっている先輩だと伝えた。

「やっぱり、だるま屋を離れるのは寂しい?」
「え!?」

 テレビ局での事を思い出していたキョーコはすっかり意識が別の所へ行っていた。

 信号が赤になり、横を向いた蓮は彼女が決して寂しさのためにぼうっとしていた訳ではないのだと気付く。

「何があった」
「何も、ないですよ?」

 キョーコはそう言うけれど、それはとても何でもないという顔ではなかった。

 強張って、傷ついて、絶望したような。
 車内は暗く、蓮からはよく見えないがきっと顔色も真っ青だ。

 先ほどまでは、キョーコの一人暮らしを心配するだるま屋夫婦の手前、細心の注意で持って何ともないふりを演じていたに違いない。

 嘘は下手なくせに演技はプロでも見抜けないほどの彼女。それは誰よりも彼女を見ていると自負する蓮ですら、時に看破できないのだった。

 ただ事ではない。そう思わざるをえない。
 蓮は出来る限りのスピードでマンションへと向かった。



「あの、荷物、運んで頂いてありがとうございました。すみません先輩にこんなことさせてしまって」

「いいんだよ、これくらい。それじゃ、俺はコーヒ淹れているから今日必要な分の荷解きが終わったらリビングまで来てくれる?」

 往復もせずに1度で運びいれられた荷物を、これからキョーコの部屋となるゲストルームに運び入れると、引越し作業の残すところはあっという間にそれだけになった。

 蓮がゲストルームを出て部屋に一人きりになるとキョーコはまた酷くつらい気持になるのを止められなかった。

 蓮にどうしたと訊かれ慌てて整え直した筈の顔はまた、止める間もなくくしゃくしゃになる。キョーコは寝間着や歯ブラシなど必要なものを出しながら、涙がこぼれないようにきつく歯を食いしばった。
 準備が出来たらまた蓮と顔を合わせなければいけないのだ。泣くわけにはいかない。

 手をせっせと動かしながらも幼い頃から今までの出来事が頭を廻った。
 辛い記憶の中で自分はいつもなぜ、なぜ、なぜと答えの出ない問いを繰り返していた。母に愛されなかった日々も、ショータローに愛されていなかったと知った日も。

 それが今日、ようやく合点がいった。

 キョーコが母に愛されなかったのも、ショータローに愛されなかったのも、キョーコが人間ではないからなのだ。

 今日の共演者を誤解させたのも、つまりキョーコが『人形』であるために、人間の機微を理解できなかったからなのだ。

 ラブミー部に入って愛を取り戻そうなどとしているけれど、人形の体にいくら人らしい何かを詰め込んだ所で、それは人間になるのだろうか。
 昔は愛とか呼ばれるものを持っていて、それを取り戻そうとしているけれどそんなものなど自分は本当に持っていたのだろうか。

「私、本当にあいつのせいで失くしちゃったのかな」

 最初から持っていなかったのではないだろうか。人間として大切なものなど。自分自身思ったはずだ。自分は空っぽだと。

 いま目標にしていること。『最上キョーコ』を作ることすら・・・作れたとして、果たしてそれは価値のあるものなのだろうか。

「違う!! 私がお人形だったのはアイツの所為よ!! あいつが全部悪いのよ!!」

 キョーコは、不破に怨キョを投げつけあの場を去った時のように、胸の内により一層の憎悪を駆り立たせることで自らを奮い立たせた。その時――

 コンコン

「最上さん? 随分時間がかかってるみたいだけど、何か足りないものでもあった?」

「あ! つ、敦賀さん、いえ、大丈夫です!! ただいま終わりましたので!!」

 必要分の荷解きはとっくに終わっていた。



 ソファーに座ったキョーコは温かいコーヒーを恐縮しながら受け取り、隣に座る蓮に謝った。

「すみません、わざわざ淹れ直して頂いて」
「謝ることじゃないよ。俺が最上さんに暖かいコーヒーを飲んで欲しかっただけなんだから」

 事務所の大先輩にここまで気遣わせて、キョーコはますます恐縮した。

「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。
 ・・・それで最上さん、一体何があったのかな?」

 先ほどの車中でのキョーコを蓮はやはり忘れてもいなければ放っておいてもくれなかった。
 一度キョーコが誤魔化したためか、心配げながらもキュラキュラと無言の圧力をかけてくる。

 キョーコは「何でもありません」と誤魔化すたびに増す圧力にとうとう耐えかねて、今日ショータローに遭遇したことを話した。
 予想はしていたが、ショータローの名前を出した途端、怨キョが反応を示す。
 それでも言葉を続けられたのは昨日の遣り取りがあったからかもしれない。心のどこか遠い片隅で、キョーコは蓮が今何を考えているのかを考えていた。

「あいつに言われたんです」
「なんて?」
「『人形』だって。あいつの言うこと聞くしか能がないって・・・!!!」

 キョーコはそれきり黙った。
 侮蔑の意図を持って突きつけられたその言葉が、どれほど自分の胸を突き刺したのか。キョーコはそれを表現する術を持たなかった。

「君は人間だ。自分の意思があって、今も自分を作り続けている。不破の言葉に耳を貸す必要なんてない」

 潤んだ視界は蓮の愚直なまでの真摯さすらぼやけさせた。

「違います、違うんです!! アイツに言われなくても分かってたんです。私は空っぽだって。人なんかじゃないって。・・・人の考えることも感じることも私には分からないもの!!」

「そんな訳ないだろう!? 昨日だって言ったはずだ。君は努力家で、頑張り屋で、我慢強くて、とても優しい子だって、そんな子が空っぽだなんて、人じゃないなんて、何故言える!?」

 蓮は、ゆるゆると首を振り言葉を紡ぐ。
 途方に暮れたのは寧ろ蓮の方だった。

「人形は誰かのために心配なんかしない、俺に勇気と力を与えてくれたのは最上キョーコだ、君なんだよ」

 俯くキョーコの手を取り、蓮がいくら諭してもキョーコは決してその言葉を受け入れはしなかった。

「だって、アイツの言ったことは本当なんです、私は、人形だから、人から愛されるはずなんて無かった、のに」

 はらはらと雫をこぼす。
 そこには、怒り、悔しさに隠しきれなかった、途方もない絶望がある。

 蓮はどんなに言葉を尽くしても伝わらないもどかしさに、キョーコを抱きしめることしかできなかった。



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天秤は蓮の方には傾いてくれなかったようです。
そして相変わらず最低やろうポジションの不破君。本人が意図する以上に人を傷つけてしまう。それが言葉の刃というものですね。
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