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鏡の国のぼくら④

2011.05.18.06:00

(改)

4話:その鏡に映るのは

君がこぼした涙の重みを
君が耐えたその痛みを
夏の日のあの少女を
俺だけは忘れない




「ねぇ、最上さん」
「何でしょうか、敦賀さん?」
「自分で気がついてる?」
「どう見えますか?」
「笑みが深すぎるのは逆に怪しまれる・・・というのを最上さんは前回学習したから嘘をついてる。・・・と見せかけてそれがブラフ」

 キョーコの出した2枚のカードをスルーして、

「4のペア」

 蓮は宣言すると、キョーコと向かい合ったテーブルの真ん中に伏せたカードを2枚出した。
――そのとき

「ダウトですっ!」

 キョーコが会心の笑みを浮かべて指摘した。
 が――

「はい、残念」

 蓮がにっこりと笑いながらつい先ほど自身が場に出した2枚のカードをめくった。それはダイヤの4とスペードの4。宣言通り嘘偽りのない4同士のペアカードだった。

「うぐぐぐ、く、悔しいぃ~~。
 絶対にダウトだと思ったのにぃ」

 キョーコの血の涙を堪えんばかりの様子に流石の蓮もぎょっとした。

「も、最上さん? 落ち着いて?」

「これが落ち着いていられますか!! ダウト対決9戦目にしてようやく敦賀さんの戦法が見破れたと思ったのに!!
 いいですか? まず敦賀さんはこちらの戦術を読んで動揺を誘うんです。そうして私がどぎまぎしている間にいらない手札を捨てる! 動揺した私は気がつけば自分のターンが回ってきていて慌ててカードを切る! 敦賀さんの嘘はそのまま流される! これが鉄則パターンなんです!!」

 キョーコは熱く語った。ほかのゲームの戦績に対し、このトランプゲーム“ダウト”のキョーコの戦績はオール黒星である。

「うん。その通り。流石に気付かれちゃったね」

 と言いつつ、今回はその作戦を裏切る結果だ。

「敦賀さんの詐欺師~~~っ」

 であるにも関わらず蓮があまりに簡単にキョーコの分析を肯定するので、キョーコの悔しさヴォルテージはますます熱を上げた。

「詐欺師って・・・君ね。相手を騙すゲームなんだから。それに戦術を常に複数もって攪乱するのはごく基本的なことだよ」

 やれやれと蓮は首を振った。

「もう一戦です!」
「手加減はしないよ」
「望むところです!」

 二人の色気のかけらもない夜が、今日もこうして過ぎていった。


 § § §


 キョーコの涙で始まった二人の同居生活は思いのほか順調だった。
 昨日の今日、から更に1日経過した現在、蓮から見てキョーコはひとまず落ち着いているように映った。
 ヒステリーを起こした、という言い方が正しいのか正しくないのか専門家でない蓮には分からない。しかし初日のキョーコがひどく情緒不安定であったのは間違いないだろう。

 3ヶ月後という長いようですぐに迎える映画撮影のこと――もしかしたら蓮との同居生活も含めて――でナイーブになっていたところに不破尚から浴びせられた痛烈な揶揄。彼女の中でわだかまり続ける“何か”を噴き出させるには十分だったに違いない。

 2日前、キョーコが蓮の胸で泣き、その腕に収まったまま眠ってしまった夜。

 蓮は眠りながらも涙をこぼし続けるキョーコの頭をずっと撫でていた。そうして考えていた。
 自分を人形だと言った、今は眠っているこの少女のことを。
 何度目かキョーコの瞼の上にのせた冷やしたタオルを交換したとき、蓮はキョーコの涙が止まっていることに気付いた。悲しい夢は終わったのか、あるいは涙が涸れてしまったのか。

「君に、教えてあげる。君がどれほど・・・」

 蓮は言葉を続けられずに結局口を閉じた。知ってほしいことが沢山ありすぎる。
 愛されていること。愛してもいいこと。愛することが出来ていること。愛を望んでもいいこと。
 そして、蓮がキョーコを愛していること。

 キョーコの髪の毛を惜しむように今一度ひと撫でし、蓮はソファーに座ったまま目を閉じた。毛布はとっくに掛けている。

 目を覚ましたとき彼女が一人でいるなんて、そんなこと許せなかった。何よりも蓮自身が。


 § § §


 私はまだ、頑張れる。

 そう思えたのは、あの日キョーコが目を覚ましたときすぐ側に蓮がいてくれたからだ。
 ちょっと硬くて高い枕から伝わった体温が、申し訳なくて苦しくて・・・嬉しかった。この温度は優しさの温度なのだと知った。

 だから

「今度こそ! ダウトーーー!!」

 今、こんな風に楽しい気持ちでいられる。あの日のことなんて、まるで忘れてしまったみたいに。

「そ、そんな・・・!」

 蓮はがっくりとしてテーブルに縋った。

「つ、敦賀さん!?」

 嬉々として5と10のカード――蓮が出した同じ数字のペアでないカード――を得意げに捲って見せたキョーコは、しょんぼりと項垂れた蓮に慌てた。

「ど、どうしたんですか!? まさかこの10戦目に願掛けでもしていたんですか!?」

 蓮の肩がぴくりと揺れ、細かく震え出す。キョーコはスッと目を細め、低い声を出した。

「敦賀さん・・・?」

 蓮が震える右手を持ち上げた。まるで『待って』というように。そして俯いたまま言った。

「ご、ごめん・・・ぷっ、ククククッ」

 ようやく顔を持ち上げた蓮はやはり笑っていた。
 キョーコは蓮の方へ上半身を伸ばすと右腕を差し出し、その目尻に溜まった涙をそうっと拭った。

「『君の目に涙は似合わないよ』とか言った方がいいですか?」
「いや、ホントごめん。こんな風に素直に悔しさとかショックとか、演技以外で表したのって久しぶりで・・・久しぶりすぎて、自分でもどうすればいいのか分からなくなってしまったんだ」

 蓮は笑いを納めて心底困ったように言う。
 キョーコは少し考えてからぽつりと呟いた。

「敦賀さんって完璧主義者の負けず嫌いですよね」
「君もね」
「でも・・・」

 視線を合わせて二人は笑った。

「あの場面、敦賀さんなら涼しい顔で“おめでとう”って言うんじゃないですか?」

「そうだね。悔しいからこそ涼しい顔をするかな。もちろん“おめでとう”って思う気持ちも本当なんだけど、それしか出さないようにする」

「やっぱり、敦賀さんでも悔しいとか思うんですね」

 キョーコは意外感を滲ませて言った。

「負けず嫌いだからね。でも、素直に悔しい気持ちを出すのって難しいよ。最上さんは顔や態度に気持ちが出やすいだろう? そういうのを見て色々思うところがあったんだけど・・・」

「思うところ、ですか?」

「もう職業病みたいなものかな。感情を抑えたりコントロールすることになれすぎてしまったから。
 君の素直なところを可愛く思うと同時に、羨望とか呆れとか心配とか、色々とね」

 キョーコがぽかんとした顔で蓮を見つめる。まだ3日目だというのにこの顔を蓮は何度目撃しただろう。

 蓮は言葉を惜しまなかった。まじめなキョーコは先輩俳優である蓮の言葉を無視できない。必ず言葉を返すことになる。蓮は自らを語ることでキョーコにキョーコを語らせていた。

 蓮は自らの内側を――自身が最も忌避する汚い内面を――キョーコにさらした。そうすることでキョーコに心を開かせようとしていた。


 最初の晩、蓮は眠るキョーコを前に覚悟を決めたのだ。いや、B・Jを乗り越えたとき、すでに覚悟だけは決まっていたに違いない。彼女のために出来るすべてのことをしようと。

 どうしようもなく自分を低く見るキョーコに声を届けるには、キョーコと蓮――最上キョーコが崇拝しているとまで言った、敦賀蓮――が何も変わらないのだと、不完全で醜さや歪さを抱えた同じ“人間”なのだと知って貰うべきだと思った。

「敦賀さん」
「うん?」

 蓮は若輩者だ。キョーコより僅かに4年先に生まれただけの。

「それは少し、寂しいですね」

 蓮は目を見開いた。それを止めそうになるクセを押さえ、目を丸くしてキョーコを見た。
 感情を抑えること、隠すこと、そして素直にそれを表せないことを、キョーコは“寂しい”と言ったのだ。
 それは幼い夏の日、自分がキョーコに言った言葉そのものだった。

「そっか。そうだね。自分では、気がつかなかった」

 教えるよりも、きっと教えられることの方が沢山ありすぎるほどだ。蓮は思った。

 だから、かもしれない。蓮は今自分がなにを意識するでもなく、花開くように笑っていた。

 ・・・それは彼の愛した少女の微笑みに似ていたかもしれない。



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おや・・・。二人の様子が・・・。
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